研究紹介

越境ECに対する消費者行動の分析

地方の課題と越境EC

地方の中小企業は多様な経営課題を抱えています。松山商工会議所の2016年の調査によると、「販売、取引先の拡大」を第一の経営課題として挙げた事業所が最も多くなりました。また、日本政策金融公庫の報告でも、20年以上の間「売上・受注の停滞、減少」が最大の経営課題のひとつとして挙げられています。このように地方の中小企業にとっては、売上・販路の拡大が長きにわたっての大きな経営課題となっていることがわかります。近年の人口減少と都市部への人口集中のために地方の市場は縮小しつつあり、販路拡大への対策は急務といえます。
このような背景のもと、eコマースが地方の中小企業の販路拡大の手段として期待されています。eコマースとは「インターネットなどのネットワークを介した電子商取引」のことを指しますが、スマートフォンの普及を背景に、近年急速に市場規模が拡大しています。eコマースは、技術的には地理的制約を超えて世界を商圏にすることが可能であり、地方の条件不利性を緩和する可能性があります。地方活性化のツールとして期待する自治体も多いです。
地方の市場規模縮小を前提としたとき、商圏を世界に広げることは早かれ遅かれ取り組まざるを得ないでしょう。その際、eコマースを活用して世界に商圏を広げる「越境EC(Electronic Commerce)」は有力な選択肢のひとつになり得ます。世界の越境ECの市場規模は巨大で高い成長が見込まれており、品質が高く特徴的な商材が多く存在する地方においても検討に値すると考えられます。

eコマースと越境ECに対する消費者行動

eコマースというとインターネットなどの情報通信技術の側面に注目しがちですが、根本的には商取引なので「経営」の側面が最も重要です。eコマースの経営は必ずしも簡単ではありませんが、その原因は技術的な難しさというよりも、むしろ経営に関する知識やノウハウの不足にあることが多いのです。そのひとつとして、eコマースの消費者行動あるいは考え方が十分に分かっていないことが挙げられます。越境ECについても同様です。eコマースの実態把握と消費者行動の背景が明らかになれば、効果的な販売戦略立案や普及促進策につなげることができます。

eコマースの消費者行動分析

研究手法としては、アンケート調査を活用しています。まずはスマートフォンおよびeコマースの利用率が高い大学生を対象とした調査からeコマースに対する消費者行動の特徴を導き出します。リアルな世界の実店舗の環境あるいは住環境がeコマースの消費者行動にも影響を与えるため、都市部と地方の両方の学生を対象とします。さらに国内のeコマースと越境ECの消費者行動や考え方の違いも重要なテーマになります。もちろん越境ECでは、日本人と外国人の行動や考え方の違いも興味深い研究対象になります。
研究によって、消費者はeコマースに対して重視する要素が異なることがわかります。例えば、利用経験の有無でeコマースに対する安全性や信頼性に対する重視度は異なりますし、住んでいる環境によって手に入りにくい商品を購入できることの重視度は変わります。国内のeコマースと越境ECでは安全性や個人情報保護に対する態度は異なりますし、日本人と中国人ではeコマースや越境ECの利用方法や重視する要素あるいは考え方に違いが見られます。
eコマースや越境ECに対する消費者行動を分析することで、適切な戦略立案につながります。eコマースや越境ECを促進したいと考えるなら、そのために整備すべき環境や取り除くべき障壁が明確になります。このようにeコマースや越境ECの消費者行動分析は興味深いテーマです。