研究紹介

排水中の微量化学物質除去のための機能紙の開発

紙の可能性に挑戦してみよう

研究の概要

皆さんにとって、「紙」とはどのような材料でしょうか?教科書やノート、ティッシュペーパーにトイレットペーパー、牛乳パックや菓子箱に代表される食品の包装材、紙幣や宅急便の伝票など、日常生活の至るところで使用されています。古くから「紙」の原料として木材由来の繊維が用いられ、書く・拭く・包むための材料として利用されてきました。戦後、化学工業の発展に伴い、化学繊維を利用した「機能紙」が誕生するなど、材料の進歩に伴って紙は様々な用途で使用されるようになりました。今では、繊維だけではなく、フィルムや粉体との複合、薬品の添加によって、従来の枠に捉われない用途で使用されています。
本研究では、紙に機能性材料を複合した機能紙を作製し、その性能や社会実装について検討しています。

研究の特色

紙には様々な機能性材料を複合できますが、本研究では、排水中の微量な化学物質を除去するための吸着材と光触媒を配合した機能紙を作製しています。
近年、欧米諸国を中心に医薬品による水環境汚染が大きな問題として取り上げられており、日本でも種々の医薬品が河川水中および下水処理水中から検出されています。医薬品は特定の生理活性を持つように設計されており、水生生物への影響や耐性菌の出現などが懸念されるため、水の循環利用の観点からも適切な処理技術が求められています。私達は、水中の医薬品を吸着できる吸着材や光触媒による処理を提案し、その有用性について検証を行っています。しかし、吸着材や光触媒は主に粉末状であるため、処理後に排水と分離する必要があります。固液分離の問題を回避するために、機能性材料をペレットのように成型する手法や、基材にコーティングする手法が用いられていますが、成型には多大なエネルギーを必要とする上に、成型物の形状制御も困難です。そこで、機能性材料の複合化と成型を同時に行う手法として、抄紙技術を用いた機能性材料粉末のシート成型を検討しています(図)。日常的に用いられているコピー用紙等には、白色度の向上や文字の裏抜け防止のために炭酸カルシウムや酸化チタンなどの粉末材料が配合されています。この粉末材料を紙に抄き込む技術を応用し、吸着材や光触媒の粉末をシート状に成型した機能紙を開発しました。

研究の魅力

ペレット成型やコーティングと比較して、機能紙は ①フレキシブルで大面積の材料を提供可能、②任意の形への裁断、成型が容易、多様な機能性材料へ応用でき、複合する機能性材料の種類や量を調整可能、といった利点を有しています。また、紙を構成する繊維についても、一般的な紙に使われる天然のパルプ繊維の他、ポリエステルのような合成繊維、ガラス繊維や金属繊維なども使うことができます。現在は排水処理を対象としていますが、以前はアルコールから水素を作る紙や、化学物質を合成する紙を研究していました。前者は高温条件下で(約300℃)、後者は有機溶媒中で使用するため、パルプや合成繊維では燃焼する、もしくは溶解するため、熱や薬品に強いセラミック繊維やガラス繊維を用いて紙を作製していました。
このように、使用する環境に応じて繊維を選択することで、様々な用途に使うことができる点が機能紙の魅力です。

今後の展望

排水中の微量化学物質の除去に関する研究は、排水処理の専門家と共同で進めており、機能紙の開発だけでなく、機能紙を搭載した水処理装置の設計にも取り組んでいます。将来的には、紙の特性を活かした新しい水処理方法を提供したいと考えています。

この研究を志望する方へのメッセージ

紙で水を処理する、と聞いて、意外に思われる方が多いと思います。紙も時代に合わせて進化しており、扱う側のアイデア次第で幅広い分野に応用できる可能性を秘めています。私達と一緒に、次世代の紙の開発に挑戦しませんか?