授業紹介

自給地域形成論

1.授業の目的と内容

授業のねらい - 未来の社会を農山漁村から展望する -

日本の人口は2010年をピークに減少へ転じました。これまでの歴史を振り返ると、人口が減少した局面はなく、大きな問題のように思えます。一方で、世界的には人口の幾何級数的な増加が続いています。また、地球上のあらゆる資源は有限であることから、その適正な配分を考えなければならない時代に入りました。
本授業では、人口増加に伴う人類のあり方、日本をはじめいくつかの国で生じている人口減少の課題と意義を考えていきます。さらに、人口問題を切り口にしつつ、地方創生やエネルギー受給をはじめとする地域社会や暮らしのあり方も外観します。人口や資源の問題を打開する方向の1つとして、食料、エネルギー、資材、経済等の地域内または国内での自給を念頭に置き、そこに農山漁村が果たす役割を見出していきます。

授業の構成

本授業の構成は次のとおりです。
1.近代化を振り返る
2.近代化の裏にある問題
3.資源問題を考える基本理念
4.エネルギー消費と再生可能エネルギー
5.種の自給
6.資源供給の試算
7.地方創生の落とし穴
8.資源自給を意識した生き方
9.資源自給につながる地域の特質と多様な文化
10.「小規模多機能自治」による新たな地域運営
11.「自給圏域」の提案
12.事例から学ぶ
※授業の最初に受講者の理解度を探るアイスブレイクを行います。また、授業の最終回に成績評価のための課題を出します。

2.授業の要点

近代化とは何だったのか?

我々の文明は、イギリスで18世紀に始まった産業革命から大きく成長しました。そのこれは、技術開発と地下資源(非再生可能エネルギー)の消費に裏付けられています。日本では、鎖国が終了した明治期から実質的な産業革命が始まります。
このような近代化は、農耕社会から産業社会(工業社会)への移行であり、その後に経済成長を重視した社会へと発展していきました。その発展過程は、大型化・専門分化・集中という性質を伴い、社会の構造、人々の暮らし、産業などをつくってきました。
近代化以降、世界も日本も人口の幾何級数的な成長が始まりました。世界では、産業革命が始まった頃に約10億人だった人口が、わずか200年で70億人にまで急増しました。日本においても、江戸末期(1900年頃)の3千万人から100年あまりで1億人を超えるまで成長しています。

資源の上限を知る -「環境収容力」と「環境容量」-

人口が増えて経済が成長する中で心配なことがあります。それは、地球上の資源がいつまで得られるのかという点です。最もわかりやすい例は、エネルギー源として重要な地下資源は採掘すればいずれなくなってしまうというものです。
さらに、地球は閉鎖系であり、外部から太陽エネルギーを得ながらその内部で資源循環が完結しています。つまり、農地の面積や動植物の成長には上限があり、我々が得られる食料には自ずと上限値があると考えられます。この上限値を、「環境収容力」(ある環境において、そこに継続的に存在できる生物の最大量)で表現できます。また、我々は生存している限り環境に負荷をかけていますが、環境を損なうことなく汚染物質を受け入れることのできる人間の活動または汚染物質の量を「環境容量」と言います。地球上の資源を使用するうえで、この概念が重要になってきます。

農山漁村の意義と可能性

これらのことから、我々は地球外や地球の内部へ生存圏を広げることができないうちは、資源の上限値の中で生きていく道を歩む必要があります。その時に、増え続ける世界の人口は「環境収容力」や「環境容量」に収まっているのか、日本の人口減少は悪いことばかりなのか、という課題が生じます。
この課題に対する1つの解決策として、資源の輸入に頼らず可能な限り自国の資源で生存できる社会への転換が挙げられます。すなわち、資源の自給や循環です。食料の生産現場である農山漁村の意義を見つめ直し、石油から製造される資材を自然由来のものに替え、再生可能エネルギーの普及に取り組むことなどが考えられます。
しかし、農山漁村では過疎・高齢化が進んでおり、地域コミュニティの活動が継続できなくなってきた事例もあります。「限界集落」という言葉も出現して久しくなりました。

「自給圏域」で新しい社会をつくる

世界的な人口の急増、日本での人口減少、資源上限が見え始めてきた現在、新しい社会を展望する必要があります。従来の枠組みにとらわれず、資源の自給・循環を重視した社会機能やコミュニティを構築することも必要になってきます。
日本では近年、「小規模多機能自治」など、おおむね小学校区程度を範囲として住民の主体性に基づくコミュニティの形成や活動展開が見られています。これを暮らしや生産の基礎的な単位として都市機能と連携し、資源の自給や経済循環を進める「自給圏域」が創出できます。都市と農山漁村の新たな結びつきによって、持続可能な社会を展望することができるでしょう。

3.教員からひとこと

近代化や地域資源の自給を考える過程では、世界の情勢や国内のあらゆる分野の実態と課題を見つめていく必要があります。それは、書物やインターネットで得られる情報ばかりではありません。自分自身が疑問と探究心を持ち、目標を設定して取り組んでいく姿勢が必要になります。その時に、世の中の本当の姿が見えてくるでしょう。この授業では、課題解決の実践論を展開することは勿論ですが、従前の価値観やものの見方を変える必要も出てきます。
時にはこれまでに見聞きしてきた常識を疑い、新たな発想を呼び起こし、世の中の真の姿を好奇心いっぱいに見つめていきましょう。