授業紹介

数理的思考

社会/自然の実像を数理で探ろう!

授業内容

この授業では、社会/自然現象を数理モデルによって分析するために必要な大学レベルの数学力を育て、自ら収集したデータの中に法則性を見出し、地域で求められる意志決定に活用できる技能を修得します。小標本については標本論で扱う確率モデルの考え方を理解することに重点を置き、大標本(ビッグデータ)についてはデータマイニングの初歩的な手法に関する知識を深めます。
ここでは「前回の授業で学んだ標本論の復習からスタートし、小標本における仮説検定を学んだ回の授業内容」を紹介しましょう。

授業の最初はおさらいから

毎回授業では、授業内容に関わる問題を5問出題し、学生に回答してもらいます。その正答率は平常点に反映されます。授業の最初の15~30分を使って、学生に前回出された質問に対する回答を板書してもらい、全員で前回の内容を復習します。異なる回答があった場合には、意見の異なる回答を書いた学生同士で議論してもらうこともあります。この日の復習は、前回出された以下のような問題(抜粋)に対して学生が回答を板書する形で進められました。

  1. 標本がどのような条件を満たせば、標本平均は母平均の推定量として一致性を持つでしょう?
  2. チェビシェフの不等式によると、標準正規分布N(0,1) にしたがう確率変数X の絶対値が10 よりも大きくなる確率は、1 %より大きいでしょうか、小さいでしょうか?

今回の授業テーマの設定

復習後は、今回の授業で何を学ぶのか、大まかなテーマについて話します。この回は仮説検定の解説ですので、仮説検定の大まかな考え方を要約してから本題に入りました。
「仮説検定では、まず本来主張したいことを否定する仮説(帰無仮説)を立て、データを根拠に帰無仮説が成立する確率がきわめて小さいことを示し、これを棄却することによって、元々自分が本来主張したかった仮説(対立仮説) を採択する回りくどい論証手続きが取られます。」

実験結果を利用した解説

仮説検定の解説では、過去に愛媛大学の学生が行ったアンカリング効果に関する実験結果を利用して説明しました。判例の与え方によって裁判員の量刑の平均に差が生じるのかどうか、分散について違いが出るのかどうかをノンパラメトリック検定によって検証し、判例の情報によって、量刑の平均にも分散にも有意な差が生じることを確認しました。この日に出された質問は、たとえば以下のようなものです。

  1. 平均値の差の検定において、帰無仮説を前提して検定統計量T0 を計算したところ、t 分布にしたがう変数t の絶対値が|T0|より大きい値を取る確率を表すP 値は、0.03 に等しくなりました。帰無仮説は棄却されるべきでしょうか?
  2. ノンパラメトリック検定とパラメトリック検定の違いについて説明しなさい。

「R」を使って実践

「分析は人任せ」では意味がないので、自力で統計処理ができなければなりません。この授業では、統計処理専用のフリーソフト「R」を使用し、クラウド上の共有フォルダで共有したデータセットを使い、受講生が自分自身で統計処理を行えるよう指導しています。

試験と実習課題

試験は2回行いますが、定着を図るため、授業中に課している数学や統計処理の概念、論理に関する質問から8問を選んで出題します。加えて仮説検定や回帰分析など、初歩的な統計処理を行う実習課題も2問課しています。課題の例としては以下のようなものがあります。

  1. 共有フォルダにあるsinchou.csvファイルの男女別身長サンプルデータから、男性の身長の母平均と女性の身長の母平均に差があると言えるかどうか仮説検定によって判定しなさい。
  2. 共有フォルダにあるexperiment2.csvファイルの量刑データが、正規分布にしたがっているかどうかを正規性の検定によって判定しなさい。

学生からひとこと

授業内容の説明を読むと「難しそう」「自分にもできるだろうか」と思う人も多いと思います。しかしこの授業は、まず高校レベルの数学(2次方程式など)の復習から入ってくれるため、最初からついていけないということはありません。また、復習を行いつつそれを発展させた、ミクロ経済学や統計学の授業でも用いられる大学レベルの数学まで学ぶことができます。
さらに、授業の中で統計処理専用のフリーソフト「R」を使用し、クラウド上の共有フォルダで共有したデータセットを使い、自分自身で統計処理を行います。この統計処理も先生がわかりやすく解説をしてくださったり、また講義資料にもやり方を詳しく記載してくださったりしているため、自分自身の力で行うことができます。この授業で「R」を使用した統計処理の方法も学ぶことで、他の専門の授業でアンケートを取った際の分析に活かすことができました。
自分は文系で数学は苦手という人も、経済学やマーケティングを学ぶ上で実施したアンケートの分析を行う機会が必ず来ます。その時になって、分析のやり方がわからない、そもそもどういう考え方が必要になってくるの??とならないように、しっかりこの授業で統計処理を行う上で必要となる考え方や方法を身につけていきましょう。後からこの授業の大切さが身に染みてよくわかります。

教員からひとこと

科学の起源を遡ると、紀元前300年ごろギリシャで盛んに研究された図形の幾何学に辿り着きます。円とか三角形を使って、合同を示したり、角の大きさを求めたりする例の…。「あー、もうあの手の話はたくさん!」と辟易している人もいるかもしれません。
しかし、抽象的な円や直角三角形を使って議論する習慣を身につけることは、みなさんの精神発達上大切な経験なのです。私たちが、現実の世界でお目にかかれるのは、しょせん「円らしきもの」、「正方形らしきもの」にすぎません。具体的な経験から一般化、抽象化した対象について考察することは、人間に許されたかなり高度な能力と言えます。
大学数学では、初等中等教育とは違い、5円玉、10円玉というような具体的な対象ではなく、5、10という抽象的な数字、さらには任意の数字を表す抽象的な記号x、yを取り扱う能力が当然のように要求されます。そして、具体的経験から抽象的な思考力を育てるだけではなく抽象的な理論を具体的な事例に当てはめる応用数理的な思考も求められます。数理的思考を使って数多くの事例と戯れ、音楽が音学でないように、数学が数楽となるような講義をともに創り上げていきましょう。