研究紹介

フレイル・サルコペニア研究を中心とした老化の臨床的研究

老化の研究背景

わが国は、世界に冠たる長寿国ですが、少子化とも相まって高齢者人口の増加(H29高齢化率27.3%(愛媛県 31.4% 全国8位))は、他の国を大きく引き離して独走状態のトップであり、社会に様々な問題を引き起こしています。特に、老化に伴う健康寿命の伸長が伸び悩むことで、医療費・介護費の増加、介護負担の増加などが地方政策や財政を逼迫しています。
老化は、定義を探すと非常に難しいのですが、一般的には、加齢に従い精神・身体機能が衰えていくプロセスと考えることが出来ます。興味深いのは、脳と筋骨格系の障害が主な介護の原因であり、がんや心臓病など死亡の主因となる疾病は頻度が低いことが分かります。つまり、要介護状態にならず、独立した(元気)な高齢期を過ごすには、命を奪う内臓疾患より、神経や筋肉、関節などの病気の方が影響が強いということです。
加齢とともに心身の活力が低下して、介護必要に至るプロセスをフレイルといいますが、フレイル自体は、可逆的であるため、予防だけではなく、治療の対象ともなります。フレイルを予防、治療することが出来れば、老化の抑制につながる、少なくとも要介護への予防につながると考えられます。
それでは、フレイルをどう見つけるかということ(定義)になるわけですが、様々な定義が存在します。その中で、調査や研究等で最もよく用いられている指標が2つあります。1つは、個人が有する疾患や機能障害の数を数え、その平均値を用いる指標です。病気や機能障害が多いほど、フレイルが強いという考え方です。もう一つは、表現型モデルといわれるもので、①筋力(握力)の低下、②(歩行)速度の低下、③予期せぬ体重減少、④強い疲労感、⑤活動性の低下の5項目中3項目以上が当てはまる場合をフレイルと診断します。
加齢に伴う筋肉量や筋力の低下をサルコペニアと呼びますが、このうち①と②は、サルコペニアの指標でもあります。上の診断基準でも明らかなように、サルコペニアはフレイルの主要な要因でもあります。

研究の内容

愛媛大学抗加齢・予防医療センターでは、いち早くサルコペニアの評価を行い、多くの研究成果を報告しています。特に、サルコペニアが動脈硬化と深く関連する研究を初期から行っています。

サルコペニア研究

1)サルコペニアと動脈硬化:サルコペニアの発症機序のうち、加齢、身体的非活動、慢性炎症、酸化ストレス、インスリン抵抗性などは、動脈硬化の発症機序でもあり、サルコペニアは動脈硬化と強く関連することが考えられます。我々は、これを臨床的に証明し、その後多くの施設から同様の報告がなされました。動脈硬化の指標には様々なものがありますが、我々は、このうち脈波伝播速度(PWV)とサルコペニアとの関連性が強いことを認めました [1,2]。PWVは、動脈の硬さの指標であり、様々な病態と関連することが知られています。
2)サルコペニアと中心血圧:PWVが上昇することにより血圧波の伝播が早くなります。血圧は波としての性質を有し、インピーダンスが異なる部位(血管の分岐部など)で反射します。反射した血圧波は、血管壁を逆向きに戻り、前向き波に重なります。血管が固く、伝播速度が速い場合は、大動脈などの中心血圧では、反射波の到達が早まり、前向き波のピークを上昇させます。一方、血管が柔らかい場合は、反射波の到達が遅く拡張期に前向き波に重なるために、中心の血圧が増強されることはありません[3]。この中心血圧は普通の上腕血圧とは異なっており、臓器障害との関連がより強いことが知られています。サルコペニアでは、予想通り中心の血圧が上昇しており、臓器障害の進展が強いと考えられます [4-6]。
3) サルコペニアと脳微小血管障害:血管の硬化を伴う中心血圧の上昇は、脳などの血流量の多い臓器において、拍動性の血圧増加を来し、この刺激が最小動脈まで伝わることから、微小血管病の原因となります。脳の微小血管病は、臨床的にはMRIによる白質障害やラクナ梗塞、微小出血として観察されますが、予想通りサルコペニアは脳微小血管病と関連していました[7]。また、脳微小血管障害は、将来の脳卒中や認知症発症のリスク因子であることが知られており、サルコペニアでは脳卒中や認知症のリスクが高い可能性を示しています。事実、サルコペニアの指標である握力の低下は、脳卒中を始めとした心血管病の発症と関連することが知られています。一方、サルコペニアと認知機能障害との関連性はこれまでの成績は一致していませんでしたが、我々は、一部は脳微小血管病を介して、また一部は未だ明らかではない他の機序を介して、サルコペニアと認知機能低下が関連することを示しました[8]。

フレイル研究

さて、サルコペニアを伴い機能障害に至った状態をフレイルに近い状態と考えることが出来ます。先に述べたようにフレイルの診断には、握力や歩行速度の計測が必要になります。握力は、手軽に測定することが出来ますが、歩行速度の計測は、4-5mの直線距離が必要であり、診察室で手軽に測定するというわけにはいきません。我々は、歩行速度に代わる指標として開眼片足立ち時間に着目しました。これまでにも、開眼片足立ち時間が、認知症患者や認知機能障害を有する例で、短いことを認めていました[9]。そこで、握力低下(男性32kg未満、女性19kg未満)と開眼片足立ち時間短縮(20秒未満)を組み合わせ、それぞれを1点としたフレイル・スコアを開発しました。最低は、フレイルの無い場合で0点、最大は握力と開眼片足立ちいずれも障害されている場合で2点です。非常に簡単なスコアですが、このスコアが認知機能、サルコペニア指標、動脈硬化指標、呼吸機能などのフレイル状態と強く関連するだけではなく、脳、心臓、腎臓といった高血圧性臓器障害とも密接に関連していることが分かりました[10]。さらに、このフレイル・スコアは、認知症の前段階と考えられる軽度認知機能障害例で上昇しており、認知機能テストを用いず、軽度認知機能障害をスクリーニングすることが出来ることを報告しました[11]。

予防に向かって

以上の研究により、サルコペニアやフレイルの病態に、動脈硬化や中心血圧上昇などが強くかかわっていることが分かりました。サルコペニア、フレイルの予防には、動脈硬化や生活習慣病の予防が重要であると考えられますが、さらに栄養介入と運動が有効とされています。さまざまな運動が介護施設等で取り入れられています。しかし、寝たきりに近いようなフレイルが強い状態では、運動を行うことは困難です。フレイルの強い例に対する介入として、現在、入浴がもつ温熱作用、抗動脈硬化作用に注目しています。我々の最近の研究において、入浴習慣が心機能の維持に関連していること、湯温が動脈硬化の進展に関連することを認めました[12]。入浴は、特別な機器を必要とせず、日常生活で行える介入であり、湯治として知られているように、疾病予防において有用な方法です。今後、入浴の条件等に関する研究も進めていきたいと考えています。

参考文献
  1.Atherosclerosis. 2010;212:327-32.
  2.Int J Cardiol. 2012;158:146-8.
  3.
Am J Hypertens. 2010;23:889-94
  4.
Endocrine. 2014;45:15-25.
  5.
Int J Cardiol. 2014;174:214-7.
  6.
J Hypertens. 2015;33:314-22.
  7.
Atherosclerosis. 2014;235:424-9.
  8.
J Cachexia Sarcopenia Muscle. 20178:557-566.
  9.
Stroke. 2015;46:16-22.
10.
Int J Cardiol. 2016;216:25-31.
11.
Sci Rep. 2017;7:46419.
12.
Sci Rep. 2018;8:8687.

(許可を得て愛媛ジャーナル2018.7月号より転載)