研究紹介

学習する地域に関する研究

研究の概要

デトロイトの廃墟となった自動車工場

 私の研究上の関心は経済活動や産業活動を空間的に考察することです。経済学において市場とは、土地の質が均一であり自然資源や技術が均一に分布しており、財や生産要素の取引にかかる交通費やその他の取引費用がゼロである条件のもとで成立しているとされています。しかし、実際の経済ではそのような市場は存在せず、経済活動は特定の文脈の上で展開されています。その結果、生産活動は特定の空間に集中し、経済の地域間格差が存在します。
 そこで私は、なぜ豊かな地域と豊かでない地域があるのかということと、なぜ豊かな地域はそれを維持することができないのかということを問題意識の核として研究してきました。そのような研究は経済地理学という学問分野に属しており、特に経済活動の主体間の近接性や集積の機能に着目して分析する学問を産業集積論といいます。

研究の特色

イギリスのサイエンスパーク

 地域の経済活動のダイナミズムを捉えるために、「学習」活動を鍵概念として分析をおこなっています。地域では生涯学習や産学官連携活動など様々な学習活動が盛んにおこなわれています。
 学習とは、辞書での定義では「まなびならうこと。過去の経験の上に立って、新しい知識や技術を習得すること」(広辞苑)と知識を増やすという捉え方がされています。そして、学習は個人や組織が時代や社会環境を創造したり、適応するために必要であり、その活動は個人や組織の進化につながります。その結果は地域活性化や地域イノベーションという形で現れます。
 学習という概念は産業集積論において、産業集積の構造的の変化を説明する概念として活用されてきました。1990年代にはアメリカのFlorida, R. (1995)やイギリスのMorgan, K. (1997)が学習地域論を展開しました。彼らは「学習地域(learning region)」という用語を用い、地域の経済発展のためには、地域にある教育・研究などのインフラの存在と同時に学習機会創出のための制度が重要であると指摘しています。
 また、地域における学習には違いがあります。ただ単に時代適応につながる他地域の真似としての追随的な学習と、新たな価値や環境を生み出すような革新的な学習などの違いがあります。さらに、地域コミュニティ内の関係を強化する同質的なものを求める学習と、異なる概念を革新的に組み合わせ、変化を生み出す学習があります。その学習のタイプの違いにより、主体間の関係も異なってきます。

研究の魅力

深圳の電子部品市場

 地域における学習の研究では、地域を捉えるために、政府統計資料の分析や、企業アンケート、産学官の機関へのヒアリング、場合によっては郷土史家へのヒアリングなど地域に深く入り込んでフィールドワークを行い、多方面・多手段からアプローチしていき包括的に地域の実態を捉えていきます。
 つまり、地域を経済的にだけではなく、社会的、文化的、歴史的に捉えることが重要だと言えます。そして、産業集積や地域イノベーションに関する研究は、地域の活性化と直接的に結びつく領域であり、研究のアウトプットは社会的に含意を提供できる意義のある学問と言えます。

今後の展望

深圳の新興オフィスビル街

 「学習地域」という概念自体は決して新しいものではないですが、地域のダイナミズムを生み出す鍵として注目されています。しかし、学習地域という用語の定義の曖昧さが指摘されています。
 地域における学習は目的ではなく地域を活性化・発展させるための手段です。地域における学習を単なるコンセプトとしてとどめるのではなく、より戦略的に検討していく必要があると言えます。
 そのためには、「学習」という概念が単なる学術上の分析ツールとしてではなく、地域活性化の政策ツールとして使用できるよう、実証研究を重ねて、モデル化を図っていきたいと考えています。

 

<参考文献>

Florida, R., 1995, Toward the Learning Region. Futures, 27:527-536.
Morgan, K., 1997, The Learning Region: Institutions, Innovation and Regional Renewal. Regional Studies. 31:491-503.
野澤一博, 2017年、地域における学習概念の再考:長野県飯田市を事例として. 地域活性研究,8.