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授業紹介

都市景観論

都市への視角

「都市の魅力とは?」「ヨーロッパ都市の景観が美しいのはなぜ?」「これからどこの都市が発展する?」「松山の城下町時代の様子は?」「アフリカの都市問題とは何か?」など、都市に関する疑問や視点は多彩です。

本授業では、多様な都市的事象を理解・分析するための視角(特に分析スケール)および各種モデル(都市内部構造論、中枢管理機能論、メンタルマップ論など)の援用による都市事例によって、都心に中層建物が卓越するヨーロッパ都市、都心の高層ビルとその周辺の低所得者地区が特徴的なアメリカ都市、都市周縁部にスラムが立地するアフリカ都市などの都市景観の差異、日本および世界の都市問題などについて学び、これからの都市ビジョンについて考察します。

都市分析の理論とアプローチ

都市(群)は、様々なスケールでの捉え方が可能です。はるか上空から都市を見下ろした映像や地図帳の小縮尺図では、都市は点であり、都市をよりクローズアップして縮尺数十万分の1以上になれば、都市は面的な広がりをもちます(表1)。前者による都市の点的分析は、広域地域における都市群の立地、規模、機能、相互関係などに着目した都市システム研究であり、具体的研究テーマには、東京一極集中、松山と高松の都市機能比較などがあります。一方、後者による都市の面的分析では、一つの都市の内部での土地利用や居住住民特性の違いに注目する都市内部構造研究や都心盛り場研究などが代表的であり、依拠する理論やアプローチが両者では異なります。

いま、「酒場(主に酒を飲ませる夜間営業飲食店)はどこに多いか」を、様々な分析スケール(縮尺)で考えてみましょう(表1)。世界全図スケールでは、先進国は酒類が主にレストランで飲まれ、発展途上国は治安の悪さから夜間営業店が少なく、日本の酒場の多さが際立つ図となります。スケールを10倍ずつ拡大していくと、図から読み取れる内容は「平野に多い」「都市中心部に多い」「二・三番町界わいに多い」など、スケールごとに変わります。このため、都市分析では、どのスケールの分析をしたいのかを、あらかじめ明確にしておく必要があります。

都市の歴史的形成プロセス

松山市の江戸時代の都市内部構造をみますと、城郭(本丸、二ノ丸)を中心に、上級武家屋敷(三ノ丸、一番町)-中・下級武家屋敷(二・三番町、歩行町、緑町)-町屋・職人町(古町、湊町)-寺町(中の川、御幸寺山麓)の順に、外側へ配置される同心円構造が明瞭でした。現在の松山市の都心地域は旧上・中級武家屋敷地区であり、市駅、オフィスビル、官公署、中心商店街が立地し、最近はマンションも目立ってきました。

四国4県都の明治初期(1873年)の人口とその順位は、①徳島市5万、②高知市4万、③高松市3万、④松山市2万でした。現在は、①松山市50万、②高松市40万、③高知市30万、④徳島市20万であり、人口順位が全く逆転し、人口数の区切りも良い(10万単位、10倍に増加)です。この背景として、明治初期は幕藩体制の名残りが濃厚で、江戸時代の松山藩や高松藩の範域は今の県域より狭かったこと、明治期以降、瀬戸内沿岸には工業機能そして人口が集積したことなどが指摘できます。このように、都市の歴史的形成プロセスやその変化はとても興味深いです。

これからの都市ビジョン

写真1は、私の通勤路で写した住宅地景観です。日本の都市景観を醜くしているのは、電線と電柱、高さ・色・様式が不揃いの建物群、特に新築建物の質の低さです。古い優れた建物は、世代を生き抜いた文化資源であり、ヨーロッパ都市の魅力は、そうした魅力ある建物群が立ち並ぶ都市景観、公共交通を活かした都心の賑わいです(写真2)。アフリカ都市は、都市インフラの未整備、スラムの拡大(写真3)など、都市問題が深刻ですが、都市の雰囲気や住民は生き生きとしています。こうした世界の都市景観、都市構造、都市生活の差異、今後の都市ビジョンとしての「コンパクトシティ」「クリエイティブシティ」「シュリンキングシティ」「スローシティ」などの都市論について、皆さんと一緒に考えてみましょう。

写真1 松山市御幸地区の住宅地景観(向こうに城山、松山城が見える)

写真2 フランス・ストラスブール市のグーテンベルク広場(古い建物群と新トラムの景観は違和感がなく美しい)

写真3 ケニア・ナイロビ市のマザレバレー地区(土壁・トタン屋根の長屋住宅が密集するスラム景観)