授業紹介

紙産業基礎演習

科目の概要

紙産業コースで取り扱う材料の中で、最も基本となる木材繊維の処理と紙の作製方法について、日本産業規格(JIS)に準じて、指定の重さの紙を正確に作製するために必要な操作を学びます。また、作製した紙の物性(強度、外観)を測定し、紙の性能を定量的に評価します。

到達目標

紙を「安全かつ正確に」作製する方法を身に付ける

授業の概要とねらい

木材繊維の含水率と重量測定

紙を作製する手順は非常にシンプルです。原料となる木材繊維を一定量測り取り、水に分散させ、原料を1枚分ずつ小分けにし、シートマシンという紙を抄く機械で脱水・ろ過した後に乾燥させると紙が出来上がります。牛乳パックからハガキを作った経験のある人もいるかと思います。ミキサーや網、アイロンを使えば、家庭でも紙を作ることができます。大学の授業で指定の重さの紙を作製することは簡単に思うかもしれませんが、実際に作製してみると、指定の重さからずれたり、紙の重さがバラバラになったりします。なぜ、作製した紙の品質がばらつくのでしょうか?

紙を作製するために、重さを測る、混ぜる、取り分ける、脱水する等、様々な操作を行います。この過程で、少なからず操作には「誤差」が発生します。例えば、カレーを毎日作るとしましょう。材料を洗い、切り、加熱し、盛り付ける際、均質になるように丁寧に作業しても、日々、どこかで必ず違いが生じます。一部、汚れが残ったり、切った材料の大きさが微妙に違ったり、かき混ぜ方が不十分で鍋の底で焦げ付きが発生したりします。各作業を細かくチェックをすればよい、と思うかもしれませんが、切った素材の1個1個の重さや形を測ったり、加熱中、鍋の至るところの温度を測定していては、手間と時間がかかり過ぎてしまいます。

 

シートマシン抄紙機による紙の作製

作業の誤差を可能な限り小さくしつつ、かつ、効率的に作業を行うため、紙を作製する際の材料の測り取り方や原料の濃度、機械の操作方法がJISで細かく定められています。本演習では、紙の製造を通じて、指定の製品を作製する上で重要なポイントとその理由を学ぶとともに、実験を通じて作業の正確性を高めます。

また、実験を行う上で、最も重要なことは精度でも効率でもなく「安全」です。木材繊維は無害な素材であり、紙は水のみで製造可能であることから、抄紙は比較的安全な作業です。しかし、1つ間違うと、感電したり、機械に指を挟んだり、足を滑らせたり、転倒したりと実験中には重大な事故につながる危険が潜んでいます。安全に実験を終えることができるよう、作業に潜む危険を予測しながら実験を行います。

教員から一言

本演習では木材繊維のみを使用したシンプルな紙を作製しますが、工業的に製造されている紙は、複数の素材を組み合わせ、様々な工程を経て作られています。3年次の後半の演習や4年次の卒業研究では、より複雑な実験を行うため、本演習を通じ、3年次の初めに実験を安全・正確・効率的に行うための基礎を身に付けて欲しいと考えています。

また、紙は工業製品の中でも安価な部類に入ります。このHPを見ている方も、コピー用紙やトイレットペーパーを貴重と思う方は、あまりいないのではないでしょうか?これは、紙が安定かつ大量に供給されているためですが、紙を正確に製造する体験を通じて、「安定に大量の製品を製造する」ことがいかに難しいかを実感し、日々、私達が利用している工業製品やサービスを提供するために、現場で様々な工夫が凝らされていると気付くことができます。本演習の体験が、ステークホルダーの活動を以前と異なる視点で捉えることにつながると期待しています。