授業紹介

持続可能性科学

持続可能性とは

図1:「大人が私たちの未来を守ってくれないなら、仕方なく学校を休んで、環境問題の解決を訴える」若者のクライメート・ストライキFridays for Future(2019, ドイツ)

「将来世代のニーズを損なうことなく、現在の世代のニーズを満たすこと」は一般的に持続可能性の条件とされています。しかし、その条件を満たしている国は残念ながらまだ存在しません。気候変動に限らず、環境問題が日々深刻になる中、SDGs (Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)を含めて、「持続可能性(サステナビリティ)」という用語・概念は、私たちの社会に急速に浸透してきました。かつて環境に興味のある人にしか響かなかったその言葉は、今となっては世界中で激しく議論されています。

人新世を生きるための「新たな常識」

図2 一人当たりのライフスタイル・カーボンフットプリント(※2)および削減目標とのギャップ(1.5℃ライフスタイルの日本語要約版の報告書、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES))

人間の幸福は、環境や他の生き物に全面的に依存している。生物の絶滅危機から、堆積物で記録が残る核実験や化石燃料の燃焼し続けてきた人間社会のフットプリント。人が地球に大きな影響を与えている「人新世」(※1)にある今は、その単純な事実を思い直す時代でもあります。将来に深い不安を感じる人が増えている中、持続可能な社会への転換と、その実現を目指す「持続可能性科学」とはどのようなものでしょうか?グローバルな世界と関わらざるをえない地域社会、その未来と向き合うための想像力、そして、人新世を生きるための知恵とスキルを身につけるのは、その基礎となる「新たな常識」と言っても過言ではありません。

本講義では、社会の在り方を抜本的に考え直すと共に、歴史的背景と資本主義、生産と消費、経済成長や脱成長について議論しながら、持続可能な社会への転換を実現するための方法を考えます。

 

 

※1 人新世:ノーベル化学賞受賞者のドイツ人化学者パウル・クルッツェンによって考案された「人類の時代」という意味の新しい時代区分。人類が地球の生態系や気候に大きな影響を及ぼすようになった時代であり、現在である完新世の次の地質時代を表している。

※2 カーボンフットプリント:商品やサービスの原材料の調達から生産、流通を経て最後に廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算したもの

 

教員から一言

図3:縮小都市の豊かな暮らしに向けて、人間の枠を超えた共生のコミュニティー・ガーデンのデザインコンセプト(Rupprecht, Yoshida, Cui 2020)

地震と違って、人の活動による環境破壊の多くは予測可能であり、避けられる人為災害です。30年前、当時の科学的根拠を踏まえ、温暖化を防止するため二酸化炭素排出量を少しずつ減らし始めていたら、気候変動を比較的簡単に解決できたかもしれません。しかし、「もう手遅れだ」ということはありません。今こそ、現代の様々な環境・社会問題をもたらした「常識」にとらわれず、持続可能で人と自然が共存共栄できる未来をどう共創できるか、一緒に考えましょう!