研究紹介

With/afterコロナと紙製検査デバイス

素材としての紙の良さ

私は四国中央市にある紙産業イノベーションセンターに在籍しております。専門は分析化学、材料科学であり、様々なモノや現象を把握するための化学的な分析法や新規材料開発に関する研究を行っています。

四国中央市は製紙、紙製品、薬品・機械会社などが密集しており、市区町村別の紙の製造品出荷額全国1位、出荷額の約9割が紙関連であり、国内有数の紙産業の街です。愛媛大学四国中央キャンパスは最新鋭の分析機器や製造装置を有する愛媛県紙産業技術センターに隣接しており、紙や材料研究に非常に適した環境となっております。ここには、社会共創学部産業イノベーション学科紙産業コースの学生(学士課程)、大学院農学研究科バイオマス資源学コース(修士課程)の学生が在籍し、日々教育と研究を行っております。

2021年、愛媛県四国中央市出身の真鍋叔郎先生がノーベル物理学賞を受賞されました。地球温暖化のシミュレーションに関する先駆的な成果が高く評価されております。地球温暖化は気象変動、海面上昇、感染症の拡大などの地球規模の環境変化をもたらすことから、対策となる温暖化ガスの発生の抑制が求められております。そのため、未来の社会づくりには、化石燃料や石油由来材料の消費を減らす必要があります。一方、環境に優しいだけなく製品の利便性や快適性を維持した製品開発が重要となります。その切り札が「紙」かと思います。紙の主原料であるセルロースは、大気中の二酸化炭素から植物の光合成を通じて作られることからカーボンニュートラルであり、高い生分解性、軽量性、安全性、加工のしやすさ、強度など材料的にも高いポテンシャルを有しています。

With/afterコロナと“はかること”

コロナウイルスによるパンデミックが我々の生活を一変させました。外出、移動制限や学校の休校も相次いでおります。このように感染症が蔓延する中においては迅速な検査は非常に重要です。たとえば、迅速検査では、陽性であれば自宅待機や適切な医療を受けることで感染症の広がりを速やかに抑制できますし、陰性であれば経済、教育、医療など社会生活の維持に必要な活動に参画できます。

迅速検査に用いられるデバイスはいくつかありますが、その中でも紙製バイオチップは診断・ケアが必要とされる場所で簡単に検査する(point-of-care testing : POCT)ための材料として期待されています。紙は、安価、持ち運びしやすいこと、試料を流すのにポンプが要らないこと(毛細管現象)、廃棄しやすいこと(医療者、検査者の2次感染:バイオハザードを防ぐ)など、他の基材と比較して良い点が沢山あります。医療現場で測定される物質は種類も濃度も様々であり、検出感度や迅速性(すぐ結果が得られること)も要求されるため、バイオチップに求められる特性も多岐に渡ります。現在、紙産業イノベーションセンターでは紙や繊維材料に機能を与えたり、作製法(加工法)を工夫するなどして、医療現場で使いやすく、定量性(濃度を正確に求めることができる)のあるチップの開発を目指して研究を行っています。

分析化学や紙関連研究を通じた地域貢献

ものづくり、医療、環境変動など社会の様々な場面で”はかること=分析”が行われています。分析することで、過去や現在を把握し、これからの起こりうる未来を予測することができます。ただ、ありふれた機器、装置、材料をそのまま分析対象に適用していくだけでは、世の中の複雑な現象には対応できないのも現状です。新たな原理の探求や材料の合成など、イノベーションへのたゆまぬ取り組みが不可欠です。このような背景のもと、地域の紙産業界、愛媛県、四国中央市などとの産官学連携をベースに研究や教育を行い、その成果を発展させることで地域紙産業の振興とまちづくりにつなげていきたいと思います。