研究紹介

土地利用における「農」

専門分野と背景

私の専門分野は「農業経済学」です。元々は農学部のなかの一分野として、経済学、社会学、経営学、史学などが含まれ、私は農業と政策の関係を研究する農政学を専攻してきました。

農業は、人々が生活したり成長したりするためのエネルギーを供給するだけでなく、農業の多面的機能と呼ばれる「国土の保全、水源の涵養(かんよう)、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等、農村で農業生産活動が行われることにより生ずる、食料その他の農産物の供給の機能以外の多面にわたる機能」があります。近年では、都市部においても都市農業の多面的機能が評価され、農地を緑地としても意義を見いだす傾向が強くなってきました。その一方で、農業従事者が減少し、農村地域であっても農家らしい農家が少数派となり、本来であれば農村で十分に発揮して欲しいはずの多面的機能の発揮が困難になってきています。

国の政策としても、日本型直接支払制度などの支援策を制度化していますが、日本全体で人口が減少してきているなかで、国として人や資源の望ましい分配に向けた将来ビジョンを描けているとはいえません。よって政策と現状とのギャップを研究成果で明らかにして、そのギャップを埋めていくことが、社会科学分野に身を置く研究者として求められている役割だと思います。

農業のおかれた現状

農業というからには、産業として成立する必要があり、戦後の農業基本法以降、農業で他産業並に所得を得ることができ、自立した安定的な経営を行うことのできる担い手を育てようとしてきました。もちろん、実際にそのような経営を確立している担い手もたくさんいて、雇用を行いながら規模拡大ができている経営もあります。しかし、どうやらそれだけでは農村という地域社会は維持できなさそうだ、というのが近年ことさらに感じています。

また、農業は地域社会からの理解がなければ成り立ちません。用排水、雑草防除や病害虫対策、田植えであれば農道を進む農機類など、やらなければ農業が成り立たない作業がたくさんあります。以前は規模の違いはあれども農業に関わっていた人が多かったためお互い様だと思えていたものが、戦後から2世代3世代かけて、同じ地域に住んでいても農業に関わらない人がマジョリティになってきたことで、農業への無関心が存続を困難にしつつあります。専業的な農業が成立するためには、同じ地域社会の構成員からの直接的あるいは間接的な支援や、理解を醸成していく必要があるのです。

農のできること

先述した現象は、「スプロール現象」という土地利用の問題や、「農村地域の混住化」という地域の構成員の変容がもたらす問題として扱われてきました。個人が行動を最適化しようとすると、様々なコンフリクトを生みます。しかし、これからの人口減少社会にポジティブに向き合うためには、地域内外の人たちといかに将来のことを考えながら関わっていくかが重要となってきます。その時、地域資源を構成する要素の一つとしての「農」を、地域での活動の場として位置づけ意義を見いだしていくことができるのではないでしょうか。

地域づくりや地域の環境・景観の維持、ひいては国土の維持をしようとしたとき、「農」による土地利用は太陽と雨があるかぎり、人の手があれば実現することができます。愛媛大学社会共創学部では地方都市ならではの様々な場面に巡りあえると思います。十人十色の人と「農」の関わり方があると思いますので、少しでも興味を持って貰えたら幸いです。