研究紹介

新たな養殖魚スマの販売戦略について考える

  • 教員: 竹ノ内 徳人
  • 学科:
  • コース: 海洋生産科学コース
  • キーワード: 地域漁業、市場調査、販売戦略、輸出戦略

はじめに

愛媛県の養殖業のうち2020年現在、魚類養殖は生産量が約6.4万トン、生産額が約512億円で全国トップです。県下の水産関係者が不断の努力で養殖生産技術の高度化や水産物流通の構造改革・輸出拡大、フルーツフィッシュの創出による養殖魚の高付加価値化などに取り組んできた結果と言えるでしょう。

私たち愛媛大学南予水産研究センターは、水産王国愛媛という恵まれた環境のなか、さらに多くのイノベーションを起こしていくために研究に取り組んでおり、その成果の一つとして新養殖魚「スマ」の開発があげられます。

新養殖魚スマの開発経緯と社会科学的なアプローチ

愛媛大学南予水産研究センターの松原先生・後藤先生・斉藤先生を中心として、愛媛県・地域関係者と協力しながら2012年度から「スマ」をモデルとした新養殖産業創出と養殖産業の構造改革に関する研究を行ってきました。(文部科学省事業「地域イノベーション戦略支援プロジェクト(2012年度~2016年度)」・「えひめ水産イノベーション・エコシステムの構築(2017年度~2021年度)」)

小型マグロ類「スマ」は、「全身トロ」を特徴としており、研究成果である早期種苗生産による高成長化と完全養殖の成功によって2015年度末より一般販売を実現することができました。
「スマ」を新しい養殖魚の一つとして産業化を考えていくには、生産者・流通業者・消費者にとって商品として位置づけられることが重要です。つまり社会実装の実現に向けた社会科学的なアプローチが必要なのです。

私は同事業プロデュースチームの一員として、事業プロデューサーの西永氏、副プロデューサーの金尾氏とともに、水産関係者や消費者を対象にした認知度、購入意思、販路開拓などを検討してきました。
これらの分析・検討にもとづきながら関係者のさまざまな取り組みの結果、国内外において事業実施期間中(2017~2021年度)のスマの累計販売額は約3億円の見込みとなりました。

媛スマの北米向けの輸出戦略

販売等については国内だけでなく海外輸出も視野に入れながら調査等の活動を行ってきました。プロデュースチームでは、北米への水産物輸出について数々の規制をクリアしながら、鮮度を落とさずにシームレスに流通させていくための一気通貫型のシステムを構築しました。また、北米飲食店で寿司・刺身の調査をしたところ、代表的で人気のあるマグロ類の仕入れ先は、アメリカ国内と中南米・東南アジア・地中海が中心で、日本産は多くないことがわかりました。つまり、北米のマグロ市場には、愛媛産の「スマ」が入り込む余地があるのです。

2020年度に冷凍スマ・フィレ(冷凍3ヶ月と冷凍6ヶ月のサンプル)を北米に試験輸出し、ホールセーラーと飲食店(7業者・20名)からアンケート調査を実施しました。その結果、仕入関係者から「取引をしてみたい」という高い評価を得られました。実際、2022年度中には冷凍スマ・フィレのビジネス成立を目指しています。

出所:ニューヨークの和食店にて冷凍スマの試食(西永豊光氏提供)

出所:ニューヨークの和食店にて冷凍スマの試食(西永豊光氏提供)

おわりに

日本の水産物輸出政策においては、2030年度目標を約1.2兆円規模としています。愛媛県の養殖業ならびに養殖魚介類は、目標達成のための大きなチャンスとして捉えられるのです。「スマ」が「マグロ類カテゴリートップ10入り」の可能性とともに、日本の水産物輸出政策の一翼を担えるように今後も調査・研究に取り組んでいきたいと考えています。