研究紹介

伝統文化を受け継ぐ担い手と観光振興との関係性

研究の特色 -観光と地域の伝統文化・沖縄織物をめぐる動向-

現在、地方の文化資源をめぐる課題として、人口減少や過疎化・少子高齢化が進み、地域コミュニティの衰退と伝統文化の担い手不足が指摘されています。
本研究室が研究対象とする沖縄県の経済産業大臣指定伝統的工芸品「読谷山花織」(琉球織物)は、一時衰退した織物技術を地域の女性らが復興しました。現在は読谷村を代表する地場産業であり、重要な観光資源として位置づけられています。沖縄県の伝統工芸は、第1に地場産業としての側面、第2に地域の歴史と密接に関わる地域文化としての側面、第3に地域の観光資源としての側面を有しています。「確実な文化継承」(文化庁)を考える際、地域文化の保存・保護のみならず、地域文化が社会の中で果たす多様な機能・役割を考えることもまた重要とされています。
以上のような問題意識を踏まえ、本研究室では、日本各地の文化継承を担う多様な主体のライフヒストリーを収集し、観光との関わりを踏まえながら、伝統文化が維持・継承される地域のメカニズムの解明に取り組んでいます。

研究の展望 ―移住者による新しい文化継承の在り方-

昨今の「田園回帰志向」の高まりを背景に、地域おこし協力隊など若い世代の移住者が徐々に地方に増えています。かつて都市住民であった若いIターン者は、多様な価値観をもち、有機的な旧来型農法や伝統文化のリバイバル、農村文化の商品化、行事慣習の復興に取り組むなど、旧住民以上に「農村の伝統文化」と農村的な暮らしを追求する存在であることが指摘されています。事例として調査した沖縄県の織物では、移住した若い女性によって生産が維持されている産地もあります。
移住先の地域社会と関わりを意識できる契機として、地域の伝統文化は重要なツールであり、彼らのライフスタイルや地域アイデンティティにも影響を与えています。本研究では、受け入れ地域の伝統文化が関わる課題(担い手不足や高齢化、文化の衰退・喪失など)を踏まえたうえで、地域文化の維持・継承に果たす移住者の役割について、農村の地域社会との関わりから検討したいと考えています。現在は、四国地方における移住者のライフヒストリーを収集し、地域文化との関係性について研究しています。

この研究を志望する方へのメッセージ -私と研究の出会い-

私が初めて「読谷山花織」に出会ったのは、学部2年生の沖縄旅行でした。観光土産物の販売店が立ち並ぶ通りで、安価な花織のコースターを手にした際、それが花織であることも、産地がどこであるのかも良く分からないまま、「沖縄らしい」鮮やかな色彩とデザインにひかれて購入したことを覚えています。後日、伝統工芸品が地域のコンテクストと切り離されて陳列されている観光の現状を知り、どこで、だれが、どのように作っているのか、生産地に関心がわいたことが「観光と文化をめぐる研究」の契機となりました。
読谷村の70名の織子(織物の生産者)の協力を得て、ライフヒストリーを記録するなかで、織子一人ひとりの生き様から、地域の歴史、産地の歴史が見えてくるようになりました。時には、私の知らなかった戦後史にふれ、「おばあ」と一緒に涙することもありました。彼女たち一人ひとりは、村の戦後復興の立役者であり、花織産地を支える生産者であり、生産工房の経営者であり、個人作家であり、一方で読谷村の文化の「担い手」であり、村の観光事業を支える重要な存在でもあります。
伝統文化の継承者が担う役割は時代によって変化します。伝統工芸品の生産や文化継承をめぐる状況は、厳しい局面にあることも事実です。多くの産地が伝統を維持しつつ、革新的な事業を展開するなど、新しい時代を迎えています。産地と一人ひとりの担い手に寄り添い、その歴史・軌跡に耳を傾けることが、研究の第一歩です。