研究紹介

都市地域計画における社会的合意形成に関する研究

  • 教員: 羽鳥 剛史
  • 学科:
  • キーワード: 合意形成、公共ガバナンス、社会心理学

社会的合意形成の難しさ

私たちは、日々、他者と何かしらの「合意」を形成しながら、社会生活を営んでいます。その一方で、皆さんの中にも、例えば、家族と旅行先を巡って、友だちとランチの行き先を巡って、クラスで文化祭の出し物を巡って、クラブ活動の練習メニューを巡って、なかなか合意に至らなかったり、場合によってはケンカ別れしたという経験をお持ちの方は少なくないのではないかと思います。この様に、身近な出来事においても、異なる人同士の間で合意を形成することは必ずしも容易なことではありません。ましてや、都市・地域計画においては、地域住民の安全・安心な暮らしや、時としてその生命に関わる事柄に関して、様々な議論が展開されます。そこでは、経済状況の改善を求める人、生命の安全を願う人、郷土愛に燃える人、環境保護を訴える人等、様々な人々が思い思いの意見を述べ、自分の主張を通そうと試みます。このような中で、人々の意思を最大限に尊重し、地域社会として何かしらの意思決定を下さなければなりません。そのためには、多様な関係者が話し合いを重ね、可能な限り合意を形成しながら、社会的な意思決定を進めていくためのルールや仕組みを整えていくことが必要になります。
以上の問題意識の下、私の研究では、都市・地域計画を進める上での「望ましい話し合いのあり方」について検討しています。その上で、関係者間の話し合いを科学的に評価・分析すると共に、より良い話し合いやそれに基づく合意形成の実現に向けた社会政策や制度を提案することを目的としています。

研究の特色

社会的合意形成研究の特色は、様々な学問領域と関わり合っている点にあります。そもそも「望ましい話し合いとは何か」という問いは、突き詰めれば、哲学の重要なテーマです。政治学の分野では、民主主義理論をはじめ、社会の中で望ましい話し合いの理念を実現するための制度的要件について様々な議論が積み重ねられています。また、人が他者と合意に至る認知過程や公衆世論の形成過程については、心理学が有用な知見を与えてくれます。現実の話し合いの内容を理解する上では、言語学や情報工学のプロトコル分析が有益なツールとなります。さらには、当事者間の話し合いが上手くいかない(ミスコミュニケーション)メカニズムを明らかにし、その是正策を検討する上では、経済学、とりわけゲーム理論が重要な理論的枠組みを提供してくれます。
私の研究では、こうした学問分野を踏まえながら、都市地域計画を進める上での社会的な合意形成問題の解決に役立つ知見を導き出すことを目指しています。

研究の魅力

「お互いに価値観や利害関心の異なる人同士がいかにして合意を形成できるのか」―この問題は、いつの時代も、どの国々や地域においても、私たち人類を悩ませ、時として深刻な争いにまで発展した普遍的なテーマです。上述した学問分野においても、人々の話し合いや合意形成に関する様々な知見が得られていますが、ともすると理念的な考え方に留まったり、限定的な条件の下での知見であったり、まだまだ現実問題との間には距離があるように思います。この意味では、現実の合意形成問題の解決を導く新しいアイディアやアプローチを見い出す余地は少なくなく、やり甲斐のあるテーマであると思います。

今後の展望

これまでの研究では、欧米流の民主主義理論をベースに、社会的意思決定を巡る話し合いや合意形成のあり方を考えてきました。ただし、日本を含め、アジア圏の地域社会では、そうした欧米系とは異なるやり方で、地域住民間の話し合いや合意形成が進められてきた可能性があります。例えば、インドネシアの村落社会では、「合議(musyawarah)」と「全員一致(mufakat)」を基本とする「ムシャワラ・ムファカット(musyawarah mufakat)」と呼ばれる慣行が存在します。現在、私の研究室では、文化心理学的な観点から、この慣行の政治文化的な意味や機能を探る国際研究をスタートさせました。こうした研究を通じて、アジア文化圏の地域的文脈を考慮した合意形成のあり方について検討していきたいと考えています。

この研究を志望する方へのメッセージ

冒頭で述べた通り、社会的な合意形成問題は、私たちの日常生活においても身近な問題である一方、いわゆる「正解」が無い問題でもあります。自分自身の経験やそこで培った考え方を大事にしつつ、そして様々な学問の可能性を追求しながら、少しでも現実の問題解決につながる成果を地道に探求していかざるを得ないように思います。そうした学問に対する知的好奇心と現実の問題解決に対する志を持って、是非、この深遠な研究テーマに一緒に粘り強く取り組んでもらえると嬉しいです。