研究紹介

東アジアの生業と社会の地域的形成過程

  • 教員: 槙林 啓介
  • 学科:
  • コース: 文化資源マネジメントコース
  • キーワード: 考古学、東アジア、生業、文化遺産

研究の特色 地域史における考古学の貢献

中国大陸における多様な農耕社会の形成過程を明らかにすることで、「中国」と「日本」との間で論じられてきたこれまでの「中華と周辺の形成」史観にとどまらず、新たな東アジア史の一面を提示したいと考えています。とりわけ、先史・古代社会における環境資源の利用を体系的に検討することで、生業体系と農耕社会の多様な形成過程を明らかにする研究を続けています。具体的には、石製・木製・鉄製の各種農耕具や加工調理具を主な研究対象として、道具と技術から見た農耕社会の生業体系を復元するのです。また、現在すでに魚類学・植物学の研究者および中国などの各研究機関と共同で稲作と漁撈との関係に関する学際的研究や、農耕社会が発展するうえで欠かせない塩業との関係について調査研究を進めており、今後もより広範囲に推進したいと考えています。

研究の魅力 普遍と多元の東アジア世界

稲作や塩業をそれだけで語ると、広く東アジアで見渡せばとても普遍的ですし、もちろん地域性もあります。しかし、何が普遍的で何が地域性なのか、まだまだ分からないところがあります。例えば、稲作(農耕)の出現と発展は、先史・古代においては狩猟採集社会から農耕社会へ変化する大きな指標となってきました。それだけに、人類史においてその普遍性がクローズアップされて来たきらいがあります。しかし、稲作は稲作として最初からあったものではなく、むしろ現在に生きる私たちから見たときの結果です。当時の人々の世界に視点を移すと、それぞれの地域で「稲作」を創造してきたのです。地域生業史・地域環境史ともいうべき観点から、生業や稲作に関わる考古資料を見ていくと、稲作はひとくくりにできるものではなく、地域それぞれに異なる稲作のあり方があり、それを「多元的な稲作化過程」と歴史評価できます。従来の一元的な発展論とは大きく異なります。

メッセージ 広い視野と、そして歴史を見る眼

なぜ、私たちは日本に住んでいるのでしょうか?日本の歴史、日本の文化、・・は、私たちとどんな関係があるのでしょうか?そして、そのことを考えたり、表現したりしたいとなぜ思っているのでしょうか?歴史学や考古学は、過去を復元し知ることだけで完結しているわけでありません。また、学問世界のみで評価されるものでもありません。私たちひとりひとりの世界や私たちが生きる社会で、どんな世界を築いていきたいのか、そのために必要な思考と活動です。
ところで、その日本は東アジアの様々な国や地域の人々や社会と関わってきたことは言うまでもありません。しかし、例えば、中国のことをどれくらい知っているでしょうか?中国と一言で言っても、実際は多様な地域社会とその文化、そして歴史が存在しています。それだけでなく、日本との関わりにおいても、歴史的に中国-日本という一対一の関係ではありません。これからは、中国地域の多様で多元的な社会とその歴史を知ることが求められるのではないでしょうか。そして、様々な角度から東アジア世界を見ることができるようになることは、今後私たちが歩んでいくときにさらに必要になってくると思います。現在の見方を常に打ち破り更新していくために、自分の視野・視点をいつも広く持っておきたいものです。