研究紹介

水産業・漁村地域に関する実証的研究:現場主義と社会実装をモットーに!

  • 教員: 若林 良和
  • 学科:
  • コース: 海洋生産科学コース
  • キーワード: 社会構造、生活文化、食育推進、魚食普及、水産(産業)振興、漁村(地域)活性化、カツオ学(カツオ産業文化)、ぎょしょく教育、フードシステム、フィールドワーク

はじめに:研究の契機と意義

カツオ漁船でのフィールドワーク「参与観察」(沖縄県宮古島沖のカツオ釣り:2014年)

私は滋賀県出身で農家の長男です。大学生の時も東京から帰省して田植えと稲刈りを手伝い、大学卒業後は地元の銀行勤めをしながら兼業農家をする予定でした。
ところが、そうした私がカツオ研究者・大学人に導かれる契機となったのは、社会学演習(大学2~4年生)で南太平洋のパラオ諸島で行なったフィールドワーク(現地調査)でした。その経緯の詳細については、拙著『カツオ一本釣り』など(研究に関連する主要著書①と⑥)で記していますが、今も「パラオ諸島で三重県出身のカツオ漁師さんたちとの出会いがなければ」と、私は思います。
この体験は、私の人生に大きな影響を与えるとともに、人との出会い~語らい~ふれあいをもとに科学すること、つまり、<現場主義を重視した実証的研究>という、私の研究姿勢の原点になりました。そして、その研究の成果をできるだけ、現場へフィードバック(還元)すること、つまり、<社会実装を重視した実証的研究>という、私の研究成果の方針となりました。

研究の内容と特色

「ぎょしょく」によるカツオ産業文化の振興(枕崎カツオマイスター検定:2016年)

私の専門分野は社会学であり、以下に述べるような、カツオ産業文化や「ぎょしょく教育」を題材とした「水産社会学」の構築がライフワークです。具体的には、基礎的な研究と応用的な研究に区分でき、主に4つの研究課題があります。

基盤的な研究課題として、次の2つがあります。
①漁村地域の社会構造と生活文化に関する研究:
漁村地域に関する基礎的な社会科学的な研究として、地域社会に対する構造分析、地域生活に対する教育・文化論的な分析を推進しています。特に、水産業・漁村の持つ本来的機能に加えて、多面的機能の把握をもとに、水産コミュニティの方途を検討しています。

②水産分野の食育推進・魚食普及に関する研究:
現代日本社会で重視されている「食と地域」・「食と産業」に関して総合的な研究を推進しています。特に、地域社会と食育推進、地域水産業と魚食普及などの方策に焦点をあてて分析しています。地域の伝統的な食文化や魚食文化の探求、食育の地域協働化、食育イベントの開発、ライフステージに応じた食育の実践が当面の課題です。さらに、地域活性化・水産振興を念頭に置いた「ぎょしょく教育」の学際的な検討を推進しています。「ぎょしょく教育」のコンテンツ・メソッド・マテリアル開発、評価・効果測定をもとに、地域水産物の普及・啓発の仕掛け(「ぎょしょく検定」、「ぎょしょくツーリズム」など)の検討を進めています。

応用的な研究として、次の2つの研究課題があります。
③「カツオ学」をもとにした水産振興と漁村活性化:
カツオに関する学際的な研究である「カツオ学」(カツオ産業文化を中心に)をもとに、水産振興と漁村活性化に連動する実践的な研究を推進しています。地域の交流と連携を念頭に置き、地域文化と生活文化の究明、地域理解教育の深化、6次産業化と地域ブランド化の立案などを検討しています。

④フードシステムの観点からみた地域水産振興システム:
地域水産振興に向けたシステム構築に関する総合的な研究を推進しています。地域水産物の生産~加工~流通~販売~消費に関する諸課題をフードシステムの観点からトータルに把握し、産学官民と地域(産地)の交流と連携による課題解決に向けた方策を検討しています。漁村地域ベースにしながら、産地サイドの6次産業化、流通サイドのコミュニケーション深化、消費サイドの啓発・教育などの検討を進めています。

研究の展望

「カツオ学」の確立に向けた展開(日本カツオ学会フォーラム:2012年)

上述した4つの研究課題は、私のライフワークと位置付けており、それらに関連することであれば、柔軟に、かつ、包括的に調査研究を進めていきたいと考えています。たとえば、研究課題②ならば、「ぎょしょく教育」に関する啓発活動や人材育成のノウハウ検討であり、研究課題④ならば、「カツオ学」をベースにした地域内外連携や共助システムのノウハウ検討です。
こうした調査研究(フィールドワークや文献渉猟による分析)の推進には、外部資金が必要です。文部科学省の科学研究費補助金をはじめ、農林水産省や経済産業省、国土交通省の補助事業資金、トヨタ財団や全漁連などの各種団体の研究助成金を獲得しています。
調査研究で得られた知見や成果は、補助機関や助成団体への提供にとどまらず、産学官民連携を念頭に、学識経験者として関係省庁や地方自治体、民間企業にフィードバックしています。それに、関連する学会(日本カツオ学会、地域漁業学会、漁業経済学会、日本食育学会など)の役職を担いながら、学術報告を行なっています。これらに対する評価として、学会賞や出版学術(文化)賞、コンクール受賞、功労表彰などを受けています。

おわりに:皆さんへのメッセージ

新養殖魚種スマの普及(「伊予の媛貴海」試食会:2016年)

水産社会研究室・社会共創演習などの運営に関するモットーは次の3つです。
①指導方針は、学生さんの無限の可能性を信じ、自主性や多様性を重視することです。
②学生さんのニーズに応じて臨機応変に指導します。とりわけ、卒業後の進路も考慮しながら、研究室やゼミの運営、卒論の指導、就職など進路の相談を行います。
③卒論のテーマは、原則、自由です。自分のこれまでの学修成果に加えて、生活体験(サークル活動やアルバイト、就職活動など)をもとに、学生(=若者)としての発想や着眼点を最大限、尊重したいと思います。卒論の内容は、農林水産業や農山漁村をはじめとする事例研究、とりわけ、愛媛県内外のフィールドワークやインターンシップを大いに歓迎します。

 

研究に関連する主要著書

①『カツオ一本釣り』中公新書、1991年(単著) 
②『社会調査の基礎』放送大学教育振興会、2004年(共著)
③『水産社会論』御茶の水書房、2000年(単著)
④『現場の学問・学問の現場』世界思想社、2000年(共著)
⑤『土佐のカツオ漁業史』高知県中土佐町、2001年(共著)
⑥『マルチメディアでフィールドワーク』有斐閣、2002年(共著)
⑦『カツオの産業と文化』成山堂書店、2004年(単著)
⑧『焼津市史 漁業編』静岡県焼津市、2005年(共著)
⑨『ぎょしょく教育』筑波書房、2008年(編著)
⑩『カツオと日本社会』筑波書房、2009年(単著) 
⑪『日本の漁村・水産業の多面的機能』北斗書房、2009年(共著)
⑫『カツオ学入門』筑波書房、2011年(編著)
⑬『食育入門』共立出版、2014年(共著)
⑭『社会共創学概論』晃洋書房、2016年(共著)
⑮『愛媛学を拓く』創風社、2019年(編著)