研究紹介

人々の身体活動促進に関する科学

  • 教員: 山本 直史
  • 学科:
  • コース: スポーツ健康マネジメントコース
  • キーワード: 身体活動疫学、行動科学、社会体育

はじめに

私は、「身体活動不足者がゼロ社会の実現」という夢目標を掲げつつ、今の私(達)にできる「それに資する目の前の課題解決を積み上げていく」ことを努力目標として研究活動に取り組んでいます。

主な研究内容

(1)身体活動と健康との因果関係を検討するための疫学的研究

日本人高齢者を対象に1日の総歩数と死亡リスクとの関係を検討し、1日の総歩数が多い者ほど死亡リスクが低下することを明らかにしました(Yamamoto et al. 2018)。アメリカの身体活動ガイドライン検討委員会は私たちの論文を引用しながら、身体活動のガイドラインの推奨量※を歩数などの一般人に対して分かりやすい指標で示すべきとの考えを示し、一層の研究の推進を世界各国の研究者に呼びかけました。これに呼応する形で、「歩数と健康」の量反応関係を検討するための国際共同ワーキンググループが立ち上がるなど、望外な広がりが得られています。
その他、日々の身体活動の強さと種類を10秒毎に記録可能なウエアラブルディバイスを用いて高齢者の日常生活の身体活動を詳細に評価し、それと筋力との関連性を分析することによって、加齢に伴う筋力低下の抑制のための日常生活における至適身体活動パターンを明らかにすることを目標とした研究も行っています(Yamamoto et al. 投稿中)。

※WHOの身体活動ガイドラインでは、「3メッツ以上の強度の身体活動を週150分以上、または、6メッツ以上の強度の身体活動を週75分以上、または、それらを組み合わせた身体活動を行うこと」が健康づくりのための身体活動の推奨量とされています。

(2)人々の身体活動習慣形成に向けた実践的研究

こちらのテーマはあまり手段にはとらわれずに、置かれた環境下で出来ることを行いたいと考えています。例えば、以下のようなことを学生と共に行っています。
①身体活動と健康の関連を検討するために様々な場所で筋力測定(調査)をさせていいただいていますが、その測定が参加いただいた方々への身体活動促進のきっかけになって欲しいとも思っています。どのような方法での結果のフィードバックが身体活動促進に効果的に働くのか、行動科学の視点で考え・実践しています。②現在、スマートインクルージョンに関連した事業に関わらせていただいています。その関連でICT(特にスマートフォン)を活用した効果的な身体活動介入方法について模索しています。③運動は一人で行うよりもグループで行う方が一層の健康効果が得られる可能性が示唆されています。では、人々はどのようなグループを好むのでしょうか?マーケティング分野で利用される手法を用いて、高齢者の運動グループに対する嗜好を定量的に評価しました(山本ら,2020)。④ある高齢者団体の会員全体、すなわち沢山の人達に身体活動の介入を届けるための方法を検討しています(山本ら,2020;Yamamoto et al., 2019;山本ら,2017)。

データを測定させていただいたり、

お話を聞かせていただいたりして、

そこから得られたデータを基に考え、

私たちに出来る人々の身体活動促進活動を模索しながら実践しています。

おわりに

身体活動不足の悪影響はタバコと同等であり、それによって1年間で全世界の530万人が死亡していると推計されています(Lee et al., 2012)。このように身体活動不足は世界的な大流行(パンデミック)の状態であり、その解決は公衆衛生上の重要課題の一つです。また、身体活動不足の解決に取り組むことは2030年の持続可能な開発目標(SDGs)のSDGs3(すべての人に健康と福祉を)という目標のみならず、SDGs8(働きがいも経済成長も)やSDGs11(住み続けられるまちづくりを)など実に13項目の目標に貢献すると考えられています(WHO,2018)。

スポーツ・身体活動に対する熱い想いを持った皆さんと一緒に活動できる日を楽しみにしています。