研究紹介

人口減少は悪なのか? -地域から未来の可能性を考えよう-

  • 教員: 笠松 浩樹
  • 学科:
  • コース: 農山漁村マネジメントコース
  • キーワード: 成長路線からの脱却、資源自給力、地方の自立

研究の動機:歴史の中で人口動態を考える

世論調査では、9割以上の国民が「人口減少は望ましくない」と回答しています。確かに、人口のピークだった2010年に比べると、現在は人口減少時代に入っています。しかし、日本で最初の産業革命のあった明治期の文明開化以降、わずか160年の間に急激な人口増加がありました。長い歴史の中でこの時期が特殊だったことを意識し、今後の社会のあり方を考えてみましょう。

研究の前提①:産業革命がもたらした人口増加

人口が爆発的に増えた背景に、医学・医療の進歩によって「多産多死」から「多産少死」になったことが挙げられます。さらに科学技術の進歩は、工業の進展、効率化、経済や資源の集中を加速させました。農業面では、機械化、化学肥料や農薬の導入、品種改良が進み、多くの人を養う食料生産も可能になりました。その結果、必要な資源を海外から購入する経済力を持ち、国内資源によって生存可能な人数を超えた人口が居住できるようになりました。

研究の前提②:複雑な人口減少の背景

日本の人口推移

少子化の背景はもう少し複雑です。科学技術は、労働者の数ではなく設備やシステムによる生産性向上ももたらしました。女性の社会進出、核家族化などが進み、働きながら出産や子育てがしにくい状況となります。また一方で、大学などの高等教育進学が一般化し、1人に必要な教育費が大きくなりました。

特に、1960年代の高度経済成長期を頂点に、オイルショックとバブル経済の崩壊を経て日本の経済成長は徐々に下がり、新型コロナウイルスの発生で2020年度は過去最低のマイナス成長となりました。経済の停滞は所得の実質的な低下につながっていきます。

これらは、社会の熟度が高まった結果と見ることもできますが、少子化が進行する要因にもなっています。

研究の問題意識:成長路線からの脱却と自立・持続する社会づくり

地方にお金が残らないしくみ

このような状況では日本の先行きは暗いと言わざるを得ません。しばしば授業で「日本の将来に不安はあるか」と学生に問いかけるのですが、おおよそ9割が「不安がある」か「わからない」と答えます。

その理由を大雑把に言えば、今の社会のしくみは経済成長が続くことを前提に組み立てられていること、しかし経済成長に陰りが見えて久しいこと、それにもかかわらず経済成長路線に替わるしくみの提示がないこと、さらには成長の原動力を人口増加に求めていることが挙げられます。また、経済と人材が都市部に集中し、地方にお金が残らないしくみができています。

少し視点を変えましょう。人口の減少が社会の停滞をもたらすのではなく、人口の増減は社会の結果だと言えないでしょうか。多くの人口を養えるようになったので人が増え、その力で産業が発展しました。20世紀後半からは経済成長が鈍化し、少子化へ向かいました。つまり、人口に合わせて社会がつくられてきたのではなく、社会のあり方によって人口は増減してきたということです。

今後は、人口の増減にかかわらず、暮らしや経済が自立・持続できるしくみづくりが急務であると言えます。

研究の魅力:資源自給力に基づいた社会を描く

多様な食材を意識することも資源循環の1つ

自立・持続の根拠の1つとして、日本の生産力に基づいて生存できる人数を考えてみました。全国の農地をベースにすると、約1億7百万人分の米の生産が可能となり、現在の人口に対して83.8%の自給力を有します。野菜は3億2百万人分で、自給力は237.7%。この考え方を応用し、再生可能エネルギー、生活に必要な資材や原料などからも扶養可能人口を想定できます。

これらの資源は地方に存在します。とりわけ、生産現場である農山漁村で資源を得て暮らす暮らし方を提案することができます。

研究の展望:資源・経済・教育のつくり直し

生産現場である地方では、域内の生産物の住民消費、熱利用を重視した木質バイオマスエネルギーの生産など、資源循環を描くことができます。

経済面では、価格破壊より社会を維持するお金の使い方、地域立脚型の企業の活動を促進し、経済の外部流出を防止できます。合わせて、サラリーマンより起業家を育成することも必要でしょう。そのためには、小回りの利く保険・保障、金融の創設も有効です。

高等学校や大学で社会との接点を多く持つことは、現実感を養い、課題解決と発展策の構築ができる人材を育てます。これは社会共創学部の使命であることは言うまでもありません。

このような社会を実現するためには、チャレンジと失敗が認められる社会が必要です。つまり、多様性を認めて活かす社会です。次の社会をどう展望するのかは、我々の明るい発想にかかっています。