研究紹介

XRAINデータ(詳細なレーダー観測降雨量)を活用した危険斜面抽出と土砂災害予測

  • 教員: バンダリ ネトラ P.(Bhandary Netra Prakash)
  • 学科:
  • キーワード: 土砂災害、斜面防災、地震防災、地理情報システム(GIS)、地域安全

研究概要

先ず、簡単な自己紹介から始めます。私は、今から約23年前に大学院生として愛媛大学大学院理工学研究科博士前期課程(修士課程)に入学し、前期課程、後期課程併せて計5年間の留学生活を送りました。土木工学の知識を基に、大学院生時代において土の力学(分野的に、土質力学や地盤工学等)を学んできて、特に地すべりや土砂災害のもとである斜面崩壊のメカニズムと大規模地すべりの発生メカニズムについて研究してきました。大学院生活終了後すぐに、愛媛大学工学部教員として採用され、約13年間教育研究活動を行っていましたが、約5年前に社会共創学部に配置換えになりました。自己紹介はここまでになりますが、私は自然科学をベースに教育研究活動を行っている人間であることを先に理解してもらえればと思います。

一言でいえば、今この数年間、私は「土砂災害」について研究を行っています。土砂災害は日本のような傾斜地や山地が多い国土と降雨量や地震活動が多い地域に最も頻発する身近な自然災害であると言っても過言ではありません。過去20年間の国内の災害データをまとめるとほぼ毎年のように土砂災害が発生しています。世界的に見ても土砂災害による被害は少なくありません。国内で言えば、指定土砂災害危険箇所は約53万箇所もあります。我々が住む中国・四国地域でも、全国1位の広島県では、約32,000、四国1位の高知では約18,000、愛媛県では約15,000の指定土砂災害危険箇所が分布しています。これらの危険箇所は、人的・物的被害の恐れがあるもののみであり、被害に至らないものも数えきれないほど点在しています。

土砂災害を含め災害対策にはハードとソフト対策技術が用いられます。ハード対策は基本的に行政が計画する構造物等による対策技術ですが、ソフト対策の様々な方法の中で最も重要であると思われているのは、災害発生前の安全な避難です。これらの対策技術を正確に、効率よく、安全を確保して使用するために、土砂災害の規模、発生位置、そしてその発生時刻を予測する必要があります。災害の規模と発生位置はやや高い精度で予測できていますが、発生時刻の予測については数時間から十数時間前までとなり、その多くは予測降雨量によるものです。また、過去の土砂災害発生地域の特徴と降雨量データ分析からも土砂災害を予測することが可能になってきています。特に、広域土砂災害予測には様々な課題があり、山奥の危険な斜面を精度高く抽出することもその一つです。私は今、広域を対象とした危険斜面抽出や土砂災害地予測等に関する研究を行っています。土砂災害以外には、地域防災計画、防災教育やネパールのような低開発国における防災教育の展開に関するアンケート調査による研究も行っています。

主な研究方法

研究方法として、主に地理情報システム(GIS)による解析方法を使用します。地域に関する各種地図情報データや降雨量データは行政機関から取得し、必要に応じて現地調査も行っています。GIS解析には市販のArcGIS(www.esrij.com/products/arcgis/)というソフトウェアや無償で提供されているQGIS(https://qgis.org/ja/site/about/index.html)というコンピュータプログラムを使用します。これらの解析方法には、多少数学と物理学の知識も必要ですが、基本的に高校の知識でも十分です。危険斜面抽出方法として、過去のデータを基に統計解析(Statistical Analysis)や機械学習(Machine Learning)による方法を使用しています。

地域防災計画や防災教育に関する研究においては、基本的に過去のデータ分析やアンケート調査法を用いています。

今までの研究成果

社会共創学部での私の研究は、特に平成30年7月豪雨災害時の土砂災害データを基に進めてきました。研究対象地域は、愛媛県の宇和島市・吉田町と広島県南部地域であり、学部生の卒業論文研究と大学院理工学研究科での修士論文研究を行ってきました。その研究成果の一部は、以下の図1~図5に示しています。

図1:平成30年7月豪雨災害時の斜面崩壊地による危険斜面抽出例(広島県南部地域)

図2:平成30年7月豪雨災害時の斜面崩壊地と土壌雨量指数(広島県南部地域)

図3:松山市中島一部のみかん畑における斜面の力学的評価

図4:平成30年7月豪雨災害時の斜面崩壊(愛媛県宇和島市)

図5:平成30年7月豪雨災害時の斜面崩壊分布と降雨状況(愛媛県宇和島市)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、過去数年間で行ってきた卒論・修論研究は以下のようになっています。

平成30年7月豪雨による土砂崩壊地分布解析とXRAINデータとの関連性分析

松山市中島地区におけるみかん畑傾斜地の安定性評価に関する研究

GISネットワークアナリスト機能を用いた避難所最適位置決定に関する検討 ~静岡県沼津地域を対象に~

・GIS解析法による地形情報を用いた豪雨時表層崩壊危険傾斜地抽出 ~松山市高浜・和気地区花崗岩地域を対象に~

平成30年7月豪雨時広島県南部地域における斜面崩壊地の空間分布とXRAINデータによる降雨特性の関連性分析

XRAINデータを用いた土壌雨量指数と土砂災害予測に関する検討 ~平成30年7月豪雨時広島県南部地域を対象に~

平成3 0年7月豪雨による広島県南部地域に発生した斜面崩壊地の地質・地形情報に基づく広域傾斜地不安定性評価

過去20年の災害歴データに基づく防災GISデータベースの作成

災害時ウェブサイトへの集中アクセス対策方法の模索~PHPプログラムによる自動表示簡素化の有用性~

モザンビーク・ナンプラ市貧困街における居住環境の現状と課題からみる持続可能な地域社会づくりに関する研究

高齢者向けアンケート調査結果による防災街づくりに関する検討 ~愛媛県松山市を対象に~

Analysis of XRAIN data and landslide distribution in southern Hiroshima during the July 2018 heavy rain-induced disasters