研究紹介

飲食文化の研究と活用・実践

  • 教員: 寺谷 亮司
  • 学科:
  • コース: 文化資源マネジメントコース
  • キーワード: 飲食文化,地理学,伝統酒,盛り場,愛媛大学酒

はじめに

私の主たる専門は、南アフリカ共和国、モーリシャス、モザンビークなどの南部アフリカ諸国や北海道の都市研究です(寺谷亮司(2002)『都市の形成と階層分化-新開地北海道・アフリカの都市システム-』古今書院など)。酒類を中心とする飲食文化の研究・実践は、もう一つのいわば裏の専門であり、ライフワークです。

この研究分野の出発点はもちろん、お酒が好きで興味があったことにあり、「好きこそものの上手なれ」です。地理学という専門柄、日本および世界各地へ出かける機会が多く、その際には必ず飲食文化も調査してきました。酒類などの飲食文化は、地域の伝統的な文化資源として存続・活用が期待され,その振興や実践活動に取り組んでいます。

研究の内容と特色

私の専門は地理学であり、地理学の学問的特徴として、気候学・地形学などの自然科学を含む広範な学問領域や視点から事象を考察することがあります。地理学者はフィールドワーク(野外調査)を重視し、特に関心をもって調査するフィールド地域があります。私の場合は、南部アフリカ地域、北海道や愛媛県などが該当します。私が研究する飲食文化の研究領域には次の4つがあり、成果の一部を紹介します。

①世界の酒類の生産・流通研究

世界の地域や民族には地産原料から造る独自の伝統酒があります。愛媛大学と10年以上交流しているモザンビークの主食・シマはトウモロコシ原料であり、トウモロコシ酒が造られます(写真1)。製糖業が盛んなモーリシャスでは製糖副産物・廃糖蜜を原料とするラム産業が盛んです。南アフリカ共和国のケープタウン周辺は、冬に雨の多い地中海性気候であり、ブドウの栽培適地として世界的なワイン産地になっています(写真2)。アフリカにはまだまだ知られていない酒類があるので、その発掘も目指しています。

写真1 モザンビークのトウモロコシ酒・カバンガ

写真2 ケープタウンのワイナリー畑(手前がブドウ,向こうがオリーブ)

②世界の酒類の消費文化研究

ヨーロッパの酒文化はゲルマン民族(西欧)のビール、ラテン民族(南欧)のワイン、スラブ民族(東欧)のスピリッツ(蒸留酒)に代表され、これらの文化の交差点であるスロベニアでは3つの飲食文化が混淆しています。国別酒類消費量を、アルコール100%換算してビール(B)、ワイン(W)、蒸留酒(S)に分け、多い順の組み合わせとして比較すると、国別特性や時期別変化がわかります。例えば、イギリスはビール、蒸留酒、ワインの順に消費量が多いBSW型から1995年に BWS型、2016年にはWBS型に変わり、ワインの消費量が増えています。日本でも、北海道や長野を中心に、今世紀になってワイナリーが増加しています。愛媛でも2011年に最初の内子ワイナリーが誕生しました。

③盛り場研究

図1 日本都市の都心盛り場の変遷模式図

日本都市の都心地域には、中心商店街に隣接して、酒場が集中する歓楽街(飲み屋街)が形成され、外国都市には見られない日本が誇る独自の日本文化の一つです。歓楽街の重要性は、郷土料理や地酒を提供する地域の飲食文化の拠点、サロン的役割など、数多くあります。松山の歓楽街は大街道の東側を中心とする二・三番町界隈であり、都市規模の割にかなり広域です。松山歓楽街は、その歴史や店舗特性からみて、大街道と八坂通りを境に、西から旧花街で和風高級酒場が多い3丁目地区、庶民的和風酒場が多い2丁目地区、洋風酒場が卓越する1丁目地区に区分できます。2020年に学生と調べた調査によれば、特に3丁目地区の料亭・割烹、1丁目地区のスナックの閉店が目立ち、地区個性の希薄化がみられます(図1)。コロナ禍の影響を最も受けている飲食店は、老舗の廃業が顕著で、伝統飲食文化の喪失に直結するだけに心配です。

④飲食文化の振興・実践研究

写真3 大学酒「愛され媛」のお披露目(2020.2.20.)

愛媛県産酒の振興のため、2006年に誕生した愛媛初の酒造好適米「しずく媛」による日本酒および内子ワイナリーの商品化の企画に取り組みました。これまで2回の愛媛大学酒(日本酒)製造プロジェクトでは責任者を務めました。2009~15年度の「媛の酒」および2019~20年度の「愛され媛」(写真3)であり、学生とともに大学酒の企画、附属農場での原料米栽培、蔵元での仕込み、生協店舗での販売活動を実施しました。コロナ禍によって懇親会需要が皆無となり、2021年度は同プロジェクトを休止せざるを得なくなったことは残念です。2021年度からは学生団体「地域文化研究会」とともに、学生による県産酒コンテストと選出蔵元の表彰、デパートでの表彰酒の販促活動なども実施しています。

皆さんへのメッセージ

上記専門領域を踏まえ、他地域との比較やグローバルな視点をもち、皆さんと一緒に各地のフィールドへ出かけ、様々な人びとの話を聞き、種々のイベントや活動に参加することによって、地域の個性や魅力、将来ビジョンを考えたいです。日本および世界のどこの地域でも、飲食文化以外のどんな地域資源にも対応いたしますので、ぜひ問い合わせや連絡をしてください。大学が地域の皆さんと協働し、地域の課題の解決に向けた方策や提案を考える地域貢献活動は、今後ますます重要になるでしょう。