研究紹介

紙の技術を使って「人と環境にやさしい」ものづくり

はじめに

愛媛県には、柑橘や水産などの一次産業から、紙、造船などの二次産業、観光を中心とした三次産業まで幅広い産業があり、人々の生活に関係する様々な製品やサービスが生み出されています。私が所属している紙産業コースは、日本一の紙のまちである四国中央市にあり、地域社会やコースに進んだ学生と一緒に新しい紙技術の研究を行っています。紙の原料は、バイオマス資源である木材などの植物を利用されており、プラスチック素材に代表される石油化学製品の代替など、CO2排出量削減の社会的背景の中、紙は環境素材として注目されています。しかし、地球環境への貢献と私たちの快適な暮らしを両立させることは、そんなに簡単ではありません。そこで、ハイブリッドという考え方が重要となります。自動車を思い浮かべてください。将来的には、CO2が排出されないクリーンなエンジンが不可欠ですが、その実現を待つのではなく、CO2排出量ができる限り削減できるハイブリッド車が普及しています。様々な素材も同じで、少しでも地球環境に貢献でき、私たちの快適な暮らしを維持できるハイブリッド素材をいち早く実用化する様々な取り組みの中で、私たちは、紙を利用し、石油系資源の削減に寄与できる新たなものづくりを研究しています。

研究の概要

紙はパルプという植物から得られたセルロースという素材の繊維からできています。このようなセルロース系素材とプラスチックを複合化した材料はグリーンコンポジットと呼ばれています。グリーンコンポジットは、プラスチックの一部がセルロース系素材に置き換わったハイブリッド素材ですので、石油系資源であるプラスチックの削減につながります。さらに、環境貢献につながる材料である点に加えて、セルロース系素材は繊維材料ですので、プラスチックを強くすることもできます。このセルロース系素材として、使い終わった紙(古紙)を用いたグリーンコンポジットに関する研究を行っています。紙ストローや紙容器など、今後、プラスチック製品を代替する紙製品はどんどん増えていきます。これら紙製品は、耐久性やデザイン性を高めるため、樹脂などがコーティングされていることが多く、使用後の紙製品(古紙)を再び紙として利用するには手間が掛かります。そこで、このコーティングされている樹脂分をプラスチックと馴染むように変えることで、単なる古紙のリサイクルではなく、古紙がグリーンコンポジットにはなくてはならない原料に変わります。この古紙を利用したグリーンコンポジットは、通常のプラスチック製品と同様の加工や使い方ができますので、プラスチック製品の便利さは損ないません。

また、セルロース繊維を塗料に利用した研究も行っています。グリーンコンポジットでは、セルロース系素材を繊維単体として利用しましたが、塗料では、繊維同士が形成するネットワークを利用しています。塗料にセルロース系素材を加えることは、グリーンコンポジット同じく、石油系資源の削減につながります。さらに、セルロース繊維がネットワーク構造を形成することで、強度や耐久性などの性能向上に加え、音の反響性などの新たな機能を付与することができます。現在、主として木材用の塗料として用途開発をしております。木材もバイオマス素材で、環境材料ですが、耐久性や意匠性などを高めるためには、塗装が不可欠です。したがって、塗料とセルロース系素材の複合化により、機能が向上することで、木材の使い勝手が向上するだけではなく、木材利用が促進されることで、環境貢献にも寄与できます。

 

おわりに

これからのものづくりは、単に素材の新しい機能を研究するだけではなく、コストなどの経済性や使い勝手という消費者ニーズとCO2排出量削減などの環境貢献や地域産業等の社会的ニーズすべてに対応できることが重要となります。そのため、これからのものづくりを担う皆さんは、材料などの農学・工学的視点に加え、社会科学の知識を学ぶことが必要となります。紙産業コースは、このようなものづくり研究を通じて、文理融合の知識が習得できるところです。皆さん、愛媛県の地域産業である紙を使って「人と環境にやさしい」新しいイノベーション創出を紙産業コースの先生や先輩、地域産業の方々と一緒に研究しませんか?