報告書


アート制作ワークショップ(photo by Hiroaki Zenke)
「アートプロジェクト(地域アート)」は、アーティストが中心となって地域を舞台に、住民等と共に制作・実施するものであり、2000年以降、日本各地に広がった現代アートの実施方式の一つです。地域アートイベントの対象地域の多くが地方、かつ人口減少地域であることが特徴で、里山の廃校、まちなかの空き店舗など、地域の遊休資源を舞台に、多様な形態で行われるようになりました。一方で、急激に拡大しつつある地域アートについては、制作から公開までの過程が、地域社会や地域文化に資するものであるのか、という議論も生じています。そこで、本プロジェクトでは、愛媛県が開催した芸術祭「アートベンチャーエヒメフェス2025」と、そのサテライト会場となった内子町小田を事例に、アート制作に携わるアーティスト自身が「当事者」の立場に立って研究を行うことで、制作・公開過程における可能性(本質的価値・社会的価値・経済的価値)を検討することを目的としました。
アーティストでもある調査者は、研究対象地域である内子町小田において、13年間にわたり民俗学的・地理学的な聞き書き調査を継続し、その成果を模造紙にまとめる手法によって、地域住民の再評価を促す文化実践に取り組んできました。この研究資料を活かし、アート作品の制作においては、地域住民と意見交換を進めながら、消失しつつある文化をより多くの人々の手によって「見える化」することを目指し、人口減少が進む中でも集落のQOLを追求する地域像そのものを「布」によって表現した作品「つむぐ」を制作しました(「アートの本質的価値」)。作品制作では、地域住民、交流・関係人口、高校生、大学生など、さまざまな対象が参加したアート制作ワークショップを全5回開催し、アートと地域を結ぶ「関係性」の創出に取り組みました(「アートの社会的価値」)。展示は、地域にとって歴史的に意味のある登録有形文化財・旧二宮邸で行い、小田中央商店街の通りをアートギャラリーのように演出することで、交流人口・関係人口を呼び込む仕組みづくりに取り組みました(「アートの経済的価値」)。
アート制作の過程とその社会的成果は、南海放送、朝日新聞愛媛版・四国版、広報うちこ12月号特集にて取り上げられ、2026年春に『アートベンチャーエヒメフェス2025ドキュメントブック』(愛媛県)として刊行予定です。
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また、本プロジェクトの学術研究の成果としては、「地域アートをめぐり交錯する『関係性』・『地域主義』と観光―未完成の段階におけるアクターの言説と制作過程に着目して―」(2025年7月5日(土)・6日(日)、第14回観光学術学会大会〔於:琉球大学〕にて最優秀賞を受賞)、および「地域資源活用型地域アートとエコツーリズムの協働の可能性―愛媛県芸術祭・内子町小田サイトでの実践を事例に―」(2025年12月13日(土)、第17回全国エコツーリズム学生シンポジウム〔於:立教大学〕)と題した研究成果として公開しました。
代表者:井口 梓(地域資源マネジメント学科)
- アート作品「つむぐ」(photo by Misa Kubonaga)
- 東京芸術大学日比野学長と旧二宮邸でのアート作品公開(photo by Misa Kubonaga)
- 愛媛県知事の視察

