報告書


遊子水荷浦の段畑
1.はじめに
愛媛県宇和島市の遊子水荷浦には、宇和海に面した急斜面に石垣を積んで築かれた段々畑が広がり、2007年に「遊子水荷浦の段畑」として四国初の国の重要文化的景観に選ばれた。しかし近年、人口減少と高齢化により段畑の維持が困難になりつつある。本プロジェクトでは、研究者や学生が自ら段畑での農作業に携わり、当事者の視点から保全の実態と課題を把握するとともに、地元住民との協働的な実践や対話を進めることを目的とした。
2.段畑保全に至った住民の思い
地元関係者への聞き取り調査(2025年6月・7月、計3回)から、段畑保全の経緯を把握した。遊子水荷浦では戦前から半農半漁の暮らしが営まれてきたが、昭和40年代に養殖業が盛んになると段畑は荒廃し、かつて約30ヘクタールあった面積は約2ヘクタールにまで縮小した。こうした中、「先祖が残した大切な遺産を後世に残したい」という住民の思いから、2000年にNPO法人「段畑を守ろう会」が結成され、重要文化的景観の選定へとつながった。
3.段畑保全の実態と課題
聞き取り調査とアンケート調査から、段畑保全の現状と課題が明らかになった。保全活動の中心を担う守ろう会は会員約40人を擁し、イベント運営や交流拠点の管理など多岐にわたる活動を続けているが、日常的な保全作業を担える人手は限られている。段畑の耕作者は最盛期の約半分にまで減少し、全体の約2割が耕作されていない状態にある。現在、守ろう会では除草剤による雑草対策が中心となっており、じゃがいも栽培にまで手が回らない区画が増えている。加えて、イノシシやハクビシン等の獣害や、石垣の維持管理に手間がかかることも、保全を難しくしている要因である。

ジャガイモの植え付け
経済面では、じゃがいもの栽培は生計の手段というよりも景観保全や地域の伝統を守る営みとしての意味合いが大きい。近年はJAを通じたインターネット販売も始まり、販路の拡大が模索されているが、付加価値をどのようにつけていくかが今後の課題である。段畑のオーナー制度も設けられているが、利用者数は伸び悩んでおり、制度の活性化が求められている。また、遊子水荷浦は半農半漁の地域であり、重要文化的景観の指定エリアには海域も含まれるが、漁業者と段畑保全との関わりは限られており、今後、農と漁の双方の視点を生かした連携のあり方を探ることも重要な課題といえる。一方、住民アンケートでは段畑が地域の象徴として広く認識されており、外部の協力を得ながら維持していく必要性を感じている住民も一定数いることが確認された。
4.段畑保全活動の実践と対話
地元住民から石積みの方法を学びつつ、社会共創学部の学生が中心となり、2025年11月より段畑での農作業に取り組んだ。11月17日に段畑2区画を耕運機で耕し、12月17日にじゃがいもの苗植えを実施した(北海道での種芋の不作により当初予定より遅延)。また、9月6日の「遊子段畑夕涼み会」に学生とともに参加し、秋田県能代市の「のしろ白神ネットワーク」と連携した灯りの交流事業も実施した。12月13日には能代市のイベントで遊子の灯りを展示し、地域間交流へと発展させた。2026年2月2日には地元関係者と活動を振り返り、大学や他地域との連携を今後も継続していく方向性を確認した。

夕涼み会への参加
5.おわりに
本年度の活動を通じて、段畑保全の現場が抱える担い手不足、経済的持続性、獣害、地域内連携といった複合的な課題を把握できた。同時に、守ろう会の20年以上にわたる活動の蓄積や、住民の段畑への深い愛着にも触れることができた。今後は、聞き取り調査をさらに進めるとともに、研究者や学生が地域生活者の立場にも身を置く「半レジデント型」のアプローチを深め、住民との協働による段畑保全に向けたトランスディシプリナリー研究を発展させていきたい。
代表者:羽鳥 剛史(環境デザイン学科)

