研究紹介

Social Enterprise Development in Indonesia by Transdisciplinary Approach

  • 教員: 西村 勝志
  • 学科:
  • キーワード: Social enterprise、Transdisciplinary approach、Collaboration

研究の概要

インドネシアは東南アジアで最も人口の多い国であり、その経済は過去数年間で急速に成長している。しかし、産業発展の遅れによる貧困・そこからの教育不足・不衛生なトイレ事情などによる水源汚染・都市部の環境悪化や交通渋滞による健康障害など、さまざまな問題に直面している。同国の持続可能な発展をもたらすためには、そうした社会問題の解決につながる社会的企業を支援し、育成する必要がある。これに応えて、この研究論文の究極的な目的は、インドネシアの社会的企業をどのように進展させるかを模索することにある。社会的問題を解決へと導く最も重要なポイントの1つは、社会的企業を形成することである。社会的企業は、私企業・中央政府・地方自治体では形成できないコミュニティサービスを形成できるからである。

本研究論文は、さまざまなステークホルダーと科学者の間のコラボレーション(共同設計・共同制作・共同配信)の下、学際的アプローチを適用することによって社会問題を解決する可能性を追求している。具体的には、インドネシアの社会的企業のための支援育成システムを開発する道筋を明らかにすることである。産業界・政府・学界の協力だけで社会的企業を支援育成する方法を模索することは難しい。そこで求められているのは、コラボレーションである。つまり、日本(愛媛県)における産学連携の例を参考にしながら、「学際的」と呼ばれる手法を用いて社会的企業を支援育成する方法を模索している。インドネシアでは、このような状況下で、社会問題を解決するための社会的企業の支援と育成を検討することが重要であり、この社会的企業の支援・育成制度は、インドネシアに限らず、開発途上国への開発目的として適用できる限り、その可能性は広がるものと期待される。

 

Gender disparity (discrimination) problem
Time : 2016, august
Location : artisanal and small-scale gold mining
sites in Bombana regency, Southeast Sulawesi

Poverty problem
Time : 2016, august
Location : artisanal and small-scale gold mining
sites in Bombana regency, Southeast Sulawesi

Health and sanitation problems
Time : 2016, august
Location : artisanal and small-scale gold mining
sites in Bombana regency, Southeast Sulawesi

研究の目的

本論文の究極的な目的は、インドネシアにおける社会の諸問題を解決へと導き、持続可能な発展をもたらしていく道筋を切り拓くことにある。そのための直接的な目的は、社会的企業を最大限活用すべく、日本の状況を参考にしながら、当該企業を育成支援することである。そして、それとは別に、トランスディシプリナリー手法の必要性ないし存在価値を浮き彫りにすることでもある。様々なステークホルダーたちが協働することで、問題解決の道が拓かれることが期待される。

研究の魅力

社会の諸問題を解決へと導くために何が必要か。そのカギを握るのが、トランスディシプリナリー手法であること、すなわち、研究者の科学的知見(科学知)と社会問題の利害関係者であるステークホルダーの現場的知見(実践知)との統合が求められる。そして、そのための協働行為が大前提となる。一人ひとりに力では限りがあるが、それぞれのステークホルダーたちが共通の目的に向かい、自らの特色や強みを活かして協働すれば、問題解決への近道となろう。現実の社会における様々な問題は複雑に絡み合っていることから、一つの問題を解決しても、新たに別の問題を発生させるといったトレードオフをもたらす。多面的な視点から問題の本質をとらえ、総合的判断を行うためには、複数のディシプリンにわたるトランスディシプリナリー手法が不可欠であり、複雑な問題の解決を可能とする点がトランスディシプリナリー手法の魅力である。

今後の展望

本論文におけるトランスディシプリナリー手法の活用は、ほんの一例でしかない。それぞれの国、それぞれの地域で、様々な問題が発生している。そして、そこでのステークホルダーの違いやそれぞれの社会的企業の存在によって、策定される解決策は多様であろう。しかし、重要なことは、科学者も含め多様なステークホルダーがいかに協働できるかである。すなわち、ステークホルダーがいかに内発的モチベーションを持って自己の意識を改革し、共に考え、共に行動し続けることが持続可能な発展を求める上で重要となる。目的に向かって突き進むためには、サーバントリーダーの存在も不可欠となろう。課題解決の方向に仲間を向かわせ、仲間を支え励まし、援助することにより、ともに目標達成へと突き進む人材が、サーバントリーダーである。その意味では、サーバントリーダーの育成も、現代社会に突きつけられた課題であろう。

 

掲載

IOP Conference Series: Earth and Environmental Science (536) 1 – 10 (2020年7月公刊)